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インスリン発見を1ドルで売った男

インスリン発見を1ドルで売ったバンティング

ちょっと古い医学雑誌を整理していたら面白い題の
医学史の話が目に入り思わず読んでしまいました。
ちょっと紹介させていただきます。
(一部省略)

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尾作貞子  バラ
http://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/101792256

1921年5月16日、トロント大学のネズミの出没する
薄暗い研究室で、29歳の無名の外科医フレデリック・
バンティングは研究を始めた。
相棒はまだ22歳の医学生チャールズ・ベストであった。
主任教授のマクラウドはすでに避暑にでかけ、10匹の
犬とわずかな器材が彼らに残されていた。
やがて許された8週間の期限である7月中旬になった
が、二人の努力にもかかわらず有効な膵エキスは
得られなかった。
バンティングは前の年に、トロントから数百マイル
離れたオンタリオ州ロンドンで開業した。
しかし、1か月後に得た収入は4ドルだけで、
フィアンセも去って行った。
向学心の強いバンティングは、知人の紹介でロンドン
大学の生理学助手となり、秋に学生の指導をする
準備として図書館で膵臓のことを調べていた。



膵臓と糖尿病への感心が消えかけていた10月30日、
バンティングは患者の来ない診察室で図書館から
借りた新着の医学雑誌を読んでいた。
雑誌にはミネソタ大学病理のバロンが、膵臓結石の
ために外分泌部が萎縮した症例を報告して、動物の
膵管をしばっても同じことが起こると報じ、
この現象と糖尿病との関係を示唆していた。
バンティングは、バロンの論文から激しい啓示を
受け取った。
「バロンの論文を読んで私は眠れなかった。
膵島細胞と糖尿病との関係を、膵管を結紮して
抽出することによって攻めて行く手段もあるように
みえた。
夜中の2時まであれこれ考えて、そのアイディアを
実験計画の形に結晶させることができた。
深夜に起き出して私はノートに書いた。”犬の膵管
を結紮せよ。6ないし8週間、変性を待て。残った
膵臓を取り出して抽出せよ”」
1920年11月、バンティングは中古のフォードを
駆って母校トロント大学に向かった。
生理学のマクラウド教授は糖代謝の権威であった。
マクラウドにしてみれば、一介の外科医バンティング
に何ができるかと、一蹴したのは当然である。
不屈の3度目の要請で、マクラウドは自分が夏休み
に行くので、8週間、研究室と10匹の犬を使う許可
を与えた。


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約束の8週間が7日ほど過ぎた7月27日、
バンティングとベストは犬の血糖を低下させる
抽出液を手にした。
そして8か月後の1922年1月11日には、糖尿病の
少年に試用して成功した。



バンティングらは、この巨額の利益を生む発見を
1ドルでトロント大学に売った。
それから20年、1941年の冬。
バンティングを乗せた双発の爆撃機はイギリスに
向かう途中ニューファンドランドの森林に墜落した。



インスリン発見後70余年、アイディアに取り憑
かれた好漢バンティングもベストも今は亡く、
インスリンの発見をめぐる人間的葛藤(注)も
雪原の彼方に消えつつある。

(注)マクラウドは、留守で結果的には何も関与
しないうちにインスリンが発見されて、発見の
プライオリティをめぐりバンティングとの間に
埋めようのない亀裂を生むはめとなった。
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1924年にジャマイカで野口英世と会ったバンティング。
野口博士が左手を隠しているのが印象的です。

出典
「医道そぞろ歩き」二宮陸雄
medicina33:3 1996-3

インスリンの発見物語
http://members.jcom.home.ne.jp/3220398001/discovary/index.html
インスリン物語
http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.cfm?bookcode=233840
「インスリンの発見」を読む
(二宮陸雄先生が書かれた本で先生の略歴
が紹介されています。)
http://ykkyy.exblog.jp/5860204/
Banting House National Historic Site
http://www.diabetes.ca/Section_About/BantingIndex.asp
(バンティングが住んだ家が記念館となっていて
写真も載っています。)
インスリン誕生の地   バンティング・ミュージアム
のご案内
http://www.dm-net.co.jp/column/jun15/jun15.htm
ジョン・ジェームズ・リッカード・マクラウド
http://ja.wikipedia.org/wiki/ジョン・ジェームズ・リッカード・マクラウド
(インシュリンの発見はバンディングによるものであり、
バンディングはマクラウドとの共同受賞に激怒した
といわれる。
バンティングはベストと賞金を分け合い、マクラウドも
インシュリンの精製に功績のあったコリップに賞金の
半分を与えた。)
20年の謎、インスリンの鍵穴
http://www.kek.jp/newskek/2006/sepoct/insulinreceptor.html
(最近、長年謎だったこのインスリン受容体の
立体構造がオーストラリアの科学者のグループ
によって初めて明らかになりました。)

<コメント>
マクラウドがノーベル賞に値するのかは興味の
あるところです。
また医学生ベストがどの程度のことをしたのかも。
いずれにしろインスリン発見で4人がノーベル賞を
受賞したことは、当時いかにエポックメーキングな
ことであったかがわかります。

<コメント>
以前、湯川秀樹博士が中間子理論を考えつく前後
の日記が出て来たことを報じた新聞記事がありました。
新しい発見には何らかのエピソードがあるものですね。

湯川秀樹『創造的人間』
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0828.html

他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室  http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed
(循環器科関係の専門的な内容)
by esnoopy | 2007-10-09 00:25 | 糖尿病
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