ピック病 (その1)

日本は高齢化社会に突き進んでいます。
その現象に伴い、当然「認知症」というものは増加していきます。
内科医たるものは、いかなる分野であろうとも「認知症」の患者さんとの係わり合いは避けて通れない問題です。
実際、少なくとも知識として「認知症」の方の、ある程度の振り分けができることが実地内科臨床医としての責務と考えあえて取り上げました。

今回はピック病です。
この病気はいまだに世界的に統一された診断基準はありません。
以下は日本医事新報への掲載内容からの掲載です。


日本医事新報4323  2007.3.3

「ピック病の診断」
群馬県こころの健康センター所長  宮永和夫 先生
群馬大学大学院医学系研究科 
  脳神経精神行動学講師      米村公江 先生

はじめに   前頭側頭葉変性症の概念成立までの経過
ピック病の歴史は、チェコスロバキアのプラハあったドイツ人大学の精神科教授アーノルド・ピック(Pick A)が、1892年に言語障害、記憶障害と意欲低下の臨床症状を呈し、剖検下肉眼的に左側頭葉の限局性脳萎縮を認めた71歳の男性を報告したことに始まる。

なお、ピック病が大脳皮質の限局性萎縮とピック嗜銀球とピック細胞の病理組織学的所見を有することを初めて記載したのは、アルツハイマー病(以下ADと略)で有名なアルツハイマー(Alzheimer A)である(1911年)。
また、ピック病の命名は、1926年に満州医大精神科教授の大成潔とドイツ人神経病理学者スパッツ(Spatz H)によりなされた。
その後、ピック病の概念は、行動障害や人格変化などの症状を示す認知症の臨床診断名とする流れと、病理診断名とする流れ(ピック球を認めるものに限定する米国と、ピック球の存在は必要ないとするドイツや日本の病理学者間の意見の対立もあっ
た)に分かれ、定義自体に混乱を含んだまま、近年に至った。
ピック病(ピック型:以下PTと略)を含む前頭側頭葉変性症という症候群/疾患群の概念は、アルツハイマー型認知症の研究に影響を受け、非アルッハイマー型認知症(NADD)をいかに分類するかという試みの中で成立したものといえる。
その契機は、1987年にスウェーデンのルンド大学のブルン(Brun A)とグスタフソン(Gustafson F)らが提唱した非アルツハイマー型前頭葉変性症(frontal lobe degenenation of non-Alzheimer type:FLD)という名称で、ADの病理所見を有せず、かつPTとは区別された非特異的病理所見を有する群の報告からであった。

翌年1988年には、英国のマンチェスター王立診療所神経学部門のニアリー(Neary D)らのグループが、前頭葉型認知症(dementia of frontal lobe type:DFT)という名称で、病理学的限定を受けない前頭葉症状を呈する臨床症状群を提唱した。

しかし、いずれも疾患概念としては定着せず、類似の臨床と病理所見を示す症例が別の名称で報告されることが続いた。

1994年、ルンド大学とマンチェスター大学の両グループは、1986年と1992年に行った国際カンファレンスをもとに、前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobular degeneration:FTLD)という名称で、臨床診断基準とともに3病理類型{ピック型(PT)、前頭葉変性型、運動ニューロン疾患(MND)型}という神経病理学的診断基準を共同提唱し、前方型(前頭葉と側頭葉の両者)萎縮を中心としたNADDを包括的に分類した。

FTD提唱2年後の1996年に、マンチェスター大グループのスノウデン(Snowden JS)らは、前方型萎縮を中心とするNADDに対し、FTDだけでなく失語を伴う認知症{進行性失語型(PA)と意味記憶障害型(SD)}を加え、前頭側頭葉変性症(FTLD)という、より広い包括概念を提唱し、併せてFTDに関しても病理類型とは別に3臨床類型(脱抑制型、無欲型、常同型)を追加した。

これ以降、臨床症状と画像所見に基づいてFTDを臨床類型で区分することが可能になったが、実際は病理類型が先に提唱されたため、病理所見に基づかずにFTDの病理類型の診断名を使用しているのが現状のようである。
さらに、1996年に開催された国際カンファレンスで臨床診断基準の最終的な合意がなされ、
1998年にニアリーらの国際ワークグループにより詳細が報告されたのが、PTを含む症候群/疾患群に関する現在の最上位概念といえる。  

<コメント>
この疾患が神経内科医ではなく、精神科医によって概念が確立されたことに興味を持ちました。
先生方は、猪瀬型肝性脳症という疾患を聞かれたことがあるでしょうか。
レビー小体型認知症もそうですが、いずれも精神科医の業績です。
(この2つには日本の精神科医が大いに関与しています。)
このピック病も含め、まずはそのことに敬意を称したいと思います。

インスリン発見の話のようなドラマチックな歴史を想像しましたが、そうでもありませんでした。
疾患概念の確立に紆余曲折があったことだけがわかりました。
ピック病を深く理解するためには必須の事項と考え、あえて掲載させていただきましたが、いかがだったでしょうか。

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by esnoopy | 2007-11-01 01:16 | その他
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