ちょっと前、それも5年近く前の医学雑誌を捲(めく)っていたら興味深い総説が載っていました。
消化器専門の先生方にとっては当たり前の内容かもしれません。 しかし循環器が専門だった一開業医にとっては新鮮な内容だったので2回にわたって紹介させていただきます。 (各図はクリックしていただくと大きくなります) これからの時代の炎症性腸疾患診療に求められるもの 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 消化・代謝内科/消化器内科 渡辺 守 教 授 炎症性腸疾患の病態解明の進歩,それに基づくまったく新しい考え方,治療への展開には,腸の特殊性を理解する必要がある. 腸疾患がにわかに注目されてきたのも,1990年代に入り腸の特殊性が解明されつつあることが大きい。 本稿では,腸管の他の組織とは異なる性質について,最近解明されてきた事実を中心に概説する. 腸は単なる管ではない 腸は発生学的に,最も古い組織であると考えられている。 かなり下等な動物にも消化・吸収を行う腸管(原腸)は存在する。 すなわち,脳のない下等動物でも栄養分を吸収する 腸は必要であり,脳も消化管を保つために発達してきたとも考えられる。 脳神経系のみならず,血管系,免疫系,内分泌系も,実は,消化・吸収を行う腸の機能を保つために発達 してきた可能性が高い。 したがって,腸管は単なる”上皮細胞からできた管”ではないのである(図1)。 他の組織の移植に比し,小腸移植の成功例がきわめて少ないことも,腸の組織としての複雑さを物語っているといえよう。 最大の面積で外界と接する 腸は,単に古い}臓器であるばかりではなく,体の外側に一番多く面している組織である。 普通,皮膚が一番多く外に面していると考えがちであるが,腸は皮膚の何と200倍,テニスコート1.5面分,300㎡ もの表面積で外界に接しているのである。 したがって,ウイルス,細菌などの微生物,食餌に含まれる抗原,異物の最大の侵入口であり,常にいろいろな物質に曝されている。 特に,腸には腸内細菌が常在し,その種類はこれまでわかっているだけでも400種類といわれており,それでも今なお,半数以上の菌が未同定であると推定されている。 ヒト1人の体内には100~200種類,10~100兆個の腸内細菌がいると考えられているが,その中には生体に必要な細菌も,毒素を産生する有害な細菌もいる。 健康なヒトの体内でも,腸と細菌は互いに毎日のようにダイナミックな戦い(生体側では細菌の殺傷・排出,細菌側では増殖・死滅を繰り返している。 そしてヒトの便の1/3はそれら細菌および腸粘膜細胞の死骸なのである(図2)。 複雑な生体防御機能を持つ ここで大きな疑問がある。 腸はもともと栄養分を消化・吸収するところであり,すなわち,良いものはどんどん取り入れたいと思っている. しかしながら,有害なもの,不要なもの,細菌などの異物が一番侵入しやすい環境として生体防御の最前線である腸は,これら悪いものを排除したいとも思っている. 腸は良いもの,悪いものをどうやって見分け,どうやって処理しているのであろうか? 実は,その識別をする装置,監視をする装置として「免疫」が発達したと考えられている。 体外からの細菌,ウイルス,食餌抗原をはじめ,さまざまな異物に対する免疫は,腸から発達してきたと考えられているのである. 最近の研究により,通常は末梢血液中,リンパ節,骨髄等に多いと考えられているリンパ球の約60%が腸に存在し,gut-associated lymphoid tissue (GALT)と呼ばれる特殊な腸管粘膜免疫機構が存在していることがわかり,腸はヒトの生体内で最大のリンパ組織であることが証明されている。 抗菌ペプチド,Toll - like受容体 (TLR),樹状細胞(DC),γδT細胞など自然免疫に働く機構,免疫グロブリン,サイトカインなどといった獲得免疫に働く機構の両方が腸には備わっており,生体内で最も複雑な免疫統御を行っているのである(図3) 日本医事新報 2003年5月3日 版権 日本医事新報社 腸管における免疫機構 http://www.healthist.jp/special/150_03/03_03.html 慶應義塾大学医学部 消化器内科学教室 下部消化管(腸管免疫グループ) http://web.sc.itc.keio.ac.jp/medicine/ibd/study.html 他にもブログがあります。 ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy (一般の方または患者さん向き) 葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/ (循環器科関係の専門的な内容)
by esnoopy
| 2008-01-30 00:23
| 消化器科
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