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注射前のアルコール消毒

Nikkei Medical 2008.2の特集「その処置、必要?」では日常診療で何の疑い
もなく行っていることが、実は意外と根拠がないという事例が紹介されています。
「トリビアの泉」的で勉強になりました。
きょうはその中のひとつを紹介させていただきます。

注射前のアルコール消毒
「必要なのは関節注か体内に留置するとき」

注射や採血の前に、アルコール綿で皮膚をゴシゴシと消毒する・・・。
「この行為には全く根拠がない。むしろ、多くの医師は意味がないと感じながら、慣習
によって続けているだけではないか」。
こう話すのは、石岡第一病院(茨城県石岡市)傷の治療センター長の夏井睦氏だ。
米国の糖尿病患者が服の上からインスリン注射をしても、なんら問題になっていない
現状を考えれば、夏井氏の言うことももっともかもしれない。

アルコール消毒に根拠がない理由は、皮膚表面と体内の環境の違いにあると夏井氏
は指摘する。
正常な皮膚の上には常在菌が定着している。
常在菌は皮脂を栄養源としており、その代謝産物としてパルミチン酸やステアリン酸
などを生成、それIこよって皮膚表面はpH5.5の弱酸性に保たれる。
一方で体内はpH7.4の中性環境だ。

「皮膚常在菌が生存できるのはpH5.5の環境。pH7.4の環境では生存できない」と
夏井氏。
つまり、注射によって皮膚常在菌がいくら体内に入ったとしても、生息環境が異なる
ため増殖できない()。
注射前のアルコール消毒_c0129546_19121993.jpg


逆に、黄色ブドウ球菌など、pH7.4の体内で増殖する菌は、弱酸性の皮膚の上では
外部から通過菌として付着し、休眠状態で張り付いているのがやっと。
健常な皮膚の上では、感染を成立させるまで増殖することはない。

入る菌はわずか数個
では、このような通過菌が注射によって体内に入り込み、感染を引き起こすことは
ないのだろうか。
針の表面積などから、注射によって体内に持ち込まれる菌の数を推計すると、「わず
か数個」(夏井氏)と少ない。
常在菌より少ない通過菌では入り込む数はさらに減少する。
また、針は注射が終われば抜去されるため、菌はすぐに体内の免疫細胞に攻撃
されてしまう。

もちろん、注射前に皮膚を念入りに消毒すべき場合もある。
血管カテーテルや点滴など、感染源となる異物を体内に留置するとき、もしくは関節に
注射するときだ。
関節腔は本来無菌状態が保たれており、外部からの感染に弱いためだ。

ランダム化比較試験も実施
実は、注射前のアルコール消毒が本当に必要かどうか、二重盲検ランダム化比較
試験で厳密に検討した研究が存在する。
せたな町立国保病院瀬棚診療所(北海道)所長の吉岡和晃氏は2003年、インフル
エンザの予防接種の際に、673人をアルコール綿で拭く群と蒸留水綿で拭く群に
割り付け、注射による皮膚感染の有無を比較した。

接種2日後もしくは3日後に接種部位を確認した結果、アルコール綿群、蒸留水綿群
ともに、1例も感染は認められなかった。
「04年から、採血の際もアルコール綿、水道水綿、もしくは拭かないという3つの選択
肢から好きなように選んでもらっているが、全く感染は起きていない。
ただし、実施には住民への丁寧な説明が必要だ」と吉岡氏は話している。

Nikkei Medical 2008.2
版権 日経BP社


注射前のアルコール消毒_c0129546_744417.jpg

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注射部位のアルコール消毒は原則的に行いません
http://homepage3.nifty.com/elfaro/information/alcohol.htm
#アルコールの消毒効果が一番出るのは、アルコールが蒸発して皮膚面が乾燥する
瞬間である、と言われています(それでも無菌にはなりません)。
ところが、多くの病院ではアルコールが完全に乾く前に注射の針を皮膚に刺して
います。
でもそれで実際に「感染が起きた」と言う話は滅多に聞いた事がありません。
つまり、今まで消毒していたつもりでも、実際にはきちんと消毒の効果が得られて
いなかったと言う事になる訳です。
それでも感染が起きていないということは、「注射の前に消毒しなくても問題ない」
ということがこれまでの経験から既に実証されている、ということになります。
#アルコール綿の入れ物の中では、アルコールに耐性を持った細菌が繁殖している、
という報告があります。
汚染されたアルコール綿を注射部位の皮膚に使用することは、「何も使用しない」場合
よりもずっと危険である可能性があります。
常在菌は通常、その菌を保有している本人には何ら悪影響を与えませんが、外から
持ち込まれた細菌は病原性を示す可能性があるからです。
このような場合は、アルコール消毒は「無意味」と言うよりむしろ「有害」ということに
なってしまいます。
#アルコールには非常に強い粘膜刺激性があります。アルコールが乾かないうちに
注射の針を刺す事は、上記のように消毒効果が不十分になるだけではなく、針の刺入
により組織に痛みを生じさせる原因となります。
また、炎症や傷のある皮膚面にアルコールを使用すると非常に強い刺激性を示す
ため、このような皮膚には使用できません。


注射の前のアルコール消毒は必要か?
http://www.wound-treatment.jp/wound048.htm

薬液缶に大量に作っておいて時間が経った酒精綿は,消毒効果はかなり弱まって
いるらしい(アルコールが蒸発してしまうため)。
作り置きの酒精綿で細菌が繁殖していた,という報告もあったはず。
そのためアメリカでは「作り置きの酒精綿」は使用せず,1枚パックのものを使って
いるらしいことを,付け加えておく。


<コメント>
それでも当院では患者さんに説得する手間も考え、従来通りアルコール消毒は
続けるつもりです。
今回勉強できたのは、
1)酒精綿は最小限作り「作り置き」をしない
2)乾燥してから注射をする

この2つは守りたいと思います。
インスリン自己注射の患者さんには以前から1枚パックを渡しています。

他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)
by esnoopy | 2008-02-27 00:06 | その他
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