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ウエスト周囲径「偏重」は疑問

ちょっと古い記事の紹介で申し訳ありません。
日経メディカル2005年12月号への掲載記事(「オピニオン」)からです。
この時点ですでに門脇先生は鋭く「ウエスト周囲径」の基準値について問題提起してみえます。
この慧眼には敬服します。

東大代謝内科教授 門脇 孝 先生
今年4月、日本内科学会や日本動脈硬化学会、日本糖尿病学会など国内8学会が合同でメタボリックシンドロームの診断基準を発表した。

高血圧、脂質代謝異常、耐糖能異常は重積しやすく、これらが心血管病の大きなリスクになることは疫学調査からも明らかであり、これまでも「死の四重奏」として同様の病態が心血管病のリスクとなることは指摘されてきた。
今回、国際的なコンセンサスのある診断基準が策定されたことで、新たに国際比較することが可能となった。
また、「ウエスト周囲径」という理解しやすい項目を必須としたことで、医療関係者や国民の意識が向いたことも評価すべきだろう。

だが、ウエスト周囲径(男性85cm、女性90cm)を必須条件とし、他に血圧、食後血糖値、脂質の異常の3つのうち2つを満たす場合をメタボリックシンドロームとする診断基準を、正しく運用していくためには臨床上、次の点に留意が必要である。

「90」はリスクを広く拾えず
まず注意が必要なのは、ウエスト周囲径の基準値だ。
第3次米国コレステロール教育プログラム成人治療パネル(NCEP  ATP-mⅢの基準では男性102cm、女性88cm、国際糖尿病学会(IDF)ではそれぞれ94cm、80cmとされている。
女性の基準値が男性より大きいのは日本だけであることに加え、現場の医師からは90cm未満の女性でもリスクが集積しているとの声が上がっている。

われわれ東大糖尿病・代謝内科では、新潟県のコホート研究で調査を行い、リスクファクターの重積とウエスト周囲径の関係を調べた。その結果、男性では85cmという基準でリスク重積者の75%をとらえることができた一方で、女性は90cmでは80%程度を見逃すことになってしまった。
ウエスト周囲径を必須項目とするならば、これだけリスク重積者を見逃してしまうのは問題だ。

そもそも、ウエスト周囲径を必須条件にすること自体にも疑問が残る。
米国で男女1万人以上を11年間追跡したARIC(Atherosclerosis Riskin Community)スタディーでNCEP-ATPⅢの5項目(高血圧、HDLコレステロール(HDL-C)低値、中性脂肪高値、空腹時血糖高値、ウエスト周囲径)のうち、何が心血管病を予測するかを調べたところ、高血圧とHDL-C低値は有意に相関を示し、中性脂肪についても有意差こそ示さなかったものの、相関の傾向が見られた。
だが、空腹時血糖値高値とウエスト周囲径については心血管病を予測しなかった。
この結果を見れば、心血管病予測の点からは、ウエスト周囲径を診断基準上必須条件とする根拠は少ないと考えざるを得ない。

概念自体には賛成
私はメタボリックシンドロームの概念自体には賛成である。
生活習慣病の予防として有用な概念であり、高リスク者を把握するという観点からも意味がある。
今後エビデンスが集積されることで、診断基準はより良いものに改訂されていくはずだ。

ちなみに、われわれのコホート研究で、80%のリスク重積者を拾い上げるためのウエスト周囲径は男性83cm、女性73cmだった。
日常診療にメタボリックシンドロームの診断基
準を使う場合には、
①ウエスト周囲径のみを絶対の指標としない
②診断基準とは別に「男性83cm、女性73cm」を境界域として扱う
などの工夫が必要となってくるだろう。

Nikkei Medical 2005.12


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by esnoopy | 2008-03-14 00:12 | その他
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