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BOT(Basal supported Oral Therapy)その2 2/2

1日1回の注射で24時間にわたり血糖を管理できるグラルギンはBOTに最適
河盛 
一般にOHAによる 2 次無効とは,高血糖や脂質異常症が膵β細胞内の酸化ストレスを高め,アポトーシスや線維化を惹起して血糖コントロールが悪化することです。
そのため良好な血糖コントロールが得られてさえいれば,内因性インスリンの効果も高くなります。
膵臓から出たインスリンは,肝臓に直接作用するので,食後の高血糖を下げるのに有効です。1日あたり 1 mgという少量のグリメピリドでも,長期にわたり血糖コントロールが維持できることもよくあります。

インスリン療法が必要と考えられる患者では朝食前も食後も血糖値が高い。
24時間インスリンを補充して,血糖値を"だるまおとし"のように下げる手段が登場しました。
インスリングラルギン(商品名:ランタス)です。
1 日 1 回の皮下注射で血中インスリンレベルを24時間にわたって安定して上昇させます。
グラルギンを巧みにSU薬などと組み合わせると,コントロールがよくなる可能性が出てきたのです。
グラルギンの登場は外来でのインスリン導入に大きく貢献しています。

清野 
従来の中間型(NPH)インスリン製剤は,投与 4 時間前後にピークがあり,ピークによる低血糖を気にすると,十分な増量を躊躇してしまうことがありました。
その点,持効型溶解インスリンアナログであるグラルギンは,効果にピークがなく,1 日にわたって安定した効果が持続します。
このような特徴を有することから就寝時に 1 日 1 回投与し,空腹時血糖を見ながら増量すれば,低血糖を来しにくくなります。
BOTに用いる基礎インスリンとして,グラルギンは最適であると思います。


患者の不安を軽減するためにもインスリン導入は少量から
河盛 
例えばグリメピリドを6mg/日服用し,αGIとBG薬を併用している患者に,BOTを試みる場合,グラルギンはどのくらいの用量からスタートしますか。

吉岡 
患者さんの体重にもよりますが,通常は 4 単位もしくは 6 単位から始めています。
個々の患者さんのインスリン抵抗性の差によって,必要量は異なりますが,ごく少量のインスリンで血糖コントロールが可能であるケースもあります。
そのため,BOTにおけるインスリンの初期投与量もあらかじめ決めずに,少量から開始して増量しながら決定していくことが重要だと思います。

まずは患者さんに,インスリン注射は「簡単」「痛くない」「確実に血糖値が下がる」ことを実感してもらうことが重要です。
実際,導入3〜4日後には多くの方がそれらを実感されています。

私の場合はHbA1cの値が低下するにつれ,SU薬をなるべく減量し,基礎インスリンを増量するという方法を取っています。

清野 
インスリン治療に対する心理的障壁を調査したDAWN(Diabetes Attitudes Wishes and Needs)studyでも,人前でインスリン注射をすることへの抵抗感が明らかになっています。
1 日 1 回投与のグラルギンは,自宅で打つことができるので,患者さんの心理的負担も軽減されます。
また,インスリン治療を始めると,血糖自己測定(SMBG)が保険適用となり費用負担が軽くなるばかりでなく,血糖値が確実に改善し,それを患者さん自身が実感できるというメリットがあります()。
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グラルギン投与は0.1単位/kgから開始しますが,その量であればまず低血糖を生じる心配はありません。


食後の高血糖に対する効果が不十分なら,追加インスリンも検討
清野 
BOTによりHbA1cが治療目標値に達するか否かは,罹病期間やインスリン分泌状況,インスリン抵抗性などにもよります。
空腹時血糖値を見ながらインスリン量を調整し,空腹時血糖値が是正されてもHbA1cが高い場合には,追加のインスリン投与を考慮します。
その場合,OHAはそのままの量を残して,SMBGで高値を示す食後の高血糖を抑えるために,食直前に超速効型インスリンを加えます。

SU薬を減量してインスリン投与量を増やすという考え方もありますが,一方でSU薬を最大量使いながらグラルギンを併用することで,インスリン投与量を低く抑えたまま安定した血糖コントロールの改善が望める例もあります。

河盛 
肥満があると「インスリン分泌が十分で,インスリン抵抗性のため高血糖」と捉えがちですが,日本人ではインスリンを測定するととても低い例が多いですね。
2 型糖尿病においては,わずかな内因性インスリン分泌を有効活用することが重要です。
SU薬によりわずかであれ内因性インスリン分泌が刺激されると,インスリンが肝に流入し食後血糖応答改善に有用です。
インスリン投与量が節約できることも認められていますね。

ところで,インスリン導入後のフォローアップはどうされていますか。

吉岡 
われわれの施設ではクリティカルパスを導入し,インスリン導入 3 日後に糖尿病療養指導士(CDE)が電話やメールで連絡を取り,さらに 1 週間後,2 週間後,1か月後に医師がフォローアップを行っています。

清野 
当院でも基本的には 2 週間に 1 度ご来院いただき,SMBGの結果によっては,インスリン投与量の調整を行います。

河盛 
診療所では,むしろ頻回の,きめ細かい外来診療が可能なのではないでしょうか。
そのメリットを活かして, BOTなどで積極的に「次の一手」を打っていただきたいと思います。HbA1c 9.0%を7.0%まで改善できれば,網膜症や腎症,神経障害,さらに脳卒中,心筋梗塞も確実に減らすことができるのです。

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M4109781&year=2008
medical Tribune 2008.2.28
版権 メディカル・トリビューン社


<以前のブログへの追加>
2008.1.23の当ブログ
肝硬変とエルトロンボパグ
http://wellfrog.exblog.jp/8052070
への追加です。

EltrombopagでC型肝炎患者の血小板数が増加
〔ニューヨーク〕ニューヨーク長老派教会病院肝疾患・移植センターの肝臓専門医でコーネル大学Weill医療センター(ともにニューヨーク)消化器病学と肝臓学部門のSamuel Sigal助教授は,新薬のeltrombopagがC型肝炎患者の血小板数を顕著に増加させ,効果的な治療法への道を開いたとNew England Journal of Medicine(NEJM,2007; 357: 2227-2236)に発表した。

30mg投与で患者の74%で血小板数が増加
C型肝炎患者では,しばしば疾患の進展に伴って血小板数が減少する。
この問題は,標準的な抗ウイルス療法が血小板数を危険なレベルにまで減少させることがあるため,結果として患者が必要な治療を受けられなくなることから複雑化している。

Sigal助教授は「今回の研究では,eltrombopagが血小板数を用量依存的に増加させ,重要な治療目標である最初の12週間の抗ウイルス療法を終了できた患者が増加した」と述べている。
同センターは22施設ある研究拠点の 1 つである。

第II相プラセボ対照試験では,C型肝炎ウイルス(HCV)感染により血小板数が少なく,肝硬変を呈する74例を追跡調査した。
対象をeltrombo-pagの投与量別の3群とプラセボ群にランダム化割り付けしたところ,同薬30mg/日投与の最低用量群では患者の74%で血小板数が有意に増加し,50mgまたは75mg/日投与群はそれぞれ79%,95%で増加した。
12週間に及ぶ抗ウイルス療法は3群でそれぞれ36%,53%,65%の患者が完遂した。プラセボ群でこの治療法を完遂できたのは 4 分の 1 未満であった。

副作用としては頭痛,ドライマウス,腹痛,悪心が確認されたが,いずれも治療を中断させるほど重度なものではなかった。

免疫性血小板減少性紫斑病にも有効
また,同センターのJames Bussel博士は,eltrombopagは血中の血小板数が著しく減少する自己免疫疾患である免疫性血小板減少性紫斑病(Immune Thrombocytopenic Pur-pura;ITP)患者で血小板数を増加させ,出血を減少させることに成功したと同誌(2007; 357: 2237-2247)に発表した。
今回の研究はeltrombopagを開発しているGlaxoSmithKline社から助成を受けている。同薬は血小板を産生する細胞の増殖と分化を誘導する研究段階の経口非ペプチド血小板増殖因子で,米国ではPromactaR,欧州ではRevoladeRとして販売されている。正常な血小板機能を回復させる他の薬剤は注入剤または注射剤であるが,同薬は 1 日1回投与の錠剤である。

米国では400万人,世界中では 1 億7,000万人がHCVのキャリアであると推定されている。
HCVはおもに輸血と血液製剤により感染する。感染患者の大多数は,輸血用血液のHCVスクリーニングが開始された1990年以前に輸血を受けるか静注の麻薬を使用していた。
また,かなりまれではあるが,性交渉時と周産期に感染することがある。

HCVは肝臓に炎症と瘢痕化を起こし,患者の約半数が治癒可能であるが,それ以外の患者では重度の肝損傷,肝がんが生じ,死亡することもある。HCV感染は肝硬変,肝移植の最も一般的な原因である。

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M4109131&year=2008Medical Tibune 2008.2.28
版権 メディカル・トリビューン社
by esnoopy | 2008-04-02 00:12 | 糖尿病
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