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前立腺がん (世界の権威に聞く )

Peter T. Scardino
スローン・ケタリング記念がんセンター(MSKCC)外科部長
コーネル大学泌尿器科教授。ニューヨーク州立大学Downstate医療センター教授。
前立腺がんの早期発見,予後,治療について高い見識を持つ前立腺がん専門の外科医。MSKCCの前立腺がんプログラム長。Nature Clinical Practice Urology誌編集長。

 
食生活の欧米化など生活習慣の変化に伴い,日本では前立腺がんが増加の一途をたどっている。
2020年には前立腺がんが男性のがん罹患率の2位に浮上すると予測される
なか,その早期発見と治療対策の重要性が増している。
スローン・ケタリング記念がんセンター外科のPeter T. Scardino部長に,「前立腺がん先進国」とも言える米国における前立腺がん医療の最新事情について聞いた。


米政府はPSA検診を容認
日本では,PSA(前立腺特異抗原)検査の集団検診について,厚生労働省研究班と日本泌尿器科学会から正反対の指針が出されている状態なのですが,米国ではどのような状況ですか。
日本と同様に米国でも,政府は前立腺がんのためのPSAスクリーニングを奨励していません。
これは, PSAスクリーニングが長期予後を改善するという「明確な」裏づけとなる長期大規模ランダム化臨床試験がまだ完了していないためです。
国の指針として正式に推奨するには,長期検討試験の結果が必要だということです。
 
しかし,
PSAスクリーニングが前立腺がんの早期発見をもたらし,予後改善に役立つことは,既に多くのランダム化臨床試験で明らかにされています。
例えば,オーストリアの大規模コホート研究では,住民に対するPSAスクリーニングを実施した地域では,12年間の前立腺がん死亡リスクが,スクリーニングを行っていない地域より50%以上低いことが示されていますし,米国では, PSAスクリーニングが徹底されるようなった過去12~14年に前立腺がん死亡率が30%以上減少しました。
 
このようにPSAスクリーニングの有用性を支持する十分なエビデンスがあるため,日本と同様に米国でも,学会や医師はPSAスクリーニングを強く推奨していますし,
政府もPSAスクリーニングを容認しています。

前立腺がんには多くの治療選択肢があり,そのなかから最適な治療法を選択するのは容易でないと思われますが,米国では治療選択の際,患者にどのように説明しているのでしょうか。

確かに前立腺がんの治療選択は容易でないかもしれません。
しかし別の見方をすれば,前立腺がんには効果的な治療法がそれだけ多く存在するということです。
そこでわれわれは,主要な治療法について個々のリスクとベネフィットを説明し,患者が自分に最も適した治療法を選択する手助けをしています。

 
例えば局所前立腺がんの場合,
第 1 に進行度,悪性度,PSA値の高い局所前立腺がんに対しては,無治療のままより治療をしたほうがよいということ,
第 2 に,手術療法と放射線療法のどちらがよいかは明らかではないが,いずれも満足な成績が期待できる治療法であり,どの治療法を選択するかよりも,むしろ熟達した医師に施術してもらうことのほうが好成績を得るには重要であること,
第 3 に,合併症のある患者や高齢患者などで,手術療法も放射線療法も適用できない場合には,ホルモン療法を行うが,根治療法にはならないので,通常の局所前立腺がんに対しては勧められないこと
などを説明します。


患者の年齢や進行度に応じて,選択肢は変わってくるわけですね。
その通りです。
例えば70歳以上の高齢者では,尿失禁や性機能障害など手術合併症のリスクが高まりますから,放射線療法を勧めるのが一般的です。
一方,70歳未満の場合は,余命が長く,手術療法のほうがより良好な腫瘍抑制効果が期待できること,万が一,治療に失敗した場合も放射線療法を行えることから,手術療法を勧めることが多いのですが,放射線療法も選択肢の 1 つであることに変わりはありません。
 
また局所進行型で悪性度の高い前立腺がんでは,単独療法では十分な治癒率が期待できないため,放射線療法とホルモン療法の併用などの方法が取られます。
つまり,T1~T2の低分化の前立腺がんに対しては,患者の好みと年齢に応じて手術療法と放射線療法のどちらを選択してもよいのですが,T3の局所進行型の患者に対しては,放射線療法後にホルモン療法を併用し,その後ホルモン療法を継続していくことが多いと言えます。


ホルモン療法不応例はどう治療すればよいのでしょうか。
ホルモン療法不応例の治療は難題ですが,1 つの選択肢として化学療法が挙げられます。
現時点では,タキサン系の化学療法薬が生存延長をもたらすことが証明されていますし,化学療法薬については多くの有望薬が登場しており,これらのいずれかがホルモン療法不応例の治療に一石を投じてくれるかもしれません。
もう 1 つは,別のホルモン療法への変更です。
ホルモン療法不応例は一切のホルモン薬が奏効しないわけではなく,例えば最初の抗アンドロゲン薬に失敗した後,第 2,第 3 の異なる抗アンドロゲン薬に変更しながら腫瘍をコントロールしていくことが可能です。
いずれにせよこの領域では,現在,興味深い治療法が開発され,臨床試験が活発に進められています。


長期成績に優れた密封小線源法
日本では,まだ局所療法として放射線療法の行われる比率が低いのですが,先生は同療法についてどのような見解を持っておられますか。
米国では近年,組織内照射療法(密封小線源療法)の 1 つであるseed implant法が多く行われるようになってきました。
しかし,線源の埋め込みには熟達した技術が必要で,施術する医師の技量により成功率,副作用発現率が大きく異なります。
一方,外照射法の治療成績は装置に委ねられるところが大きいため,密封小線源療法ほど施術者の技量が影響することはありません。
特に手術療法による合併症リスクの高い高齢者にとっては,たいへん有効な治療法だと考えます。
 
1 つ問題となるのは,局所前立腺がんに対して十分な効果を得るためには,70Gy以上の高線量の照射が必要な点です。高線量を用いた場合の有効性は高く,正常組織への安全性を確保しながら目標部位のみへの高線量照射が可能な強度変調放射線療法(IMRT)を用いた最近の研究では,81Gy,86Gyという高線量照射により,90%の患者でがん細胞の完全消失が確認されました。


米国では密封小線源療法の普及などにより待機療法を選択する比率が減少していると聞きます。
確かに70歳未満の患者では待機療法が減り,手術療法または放射線療法の比率が増えてきています。
しかし,75歳以上の高齢者にとっては重要な治療法であり,これらの患者の半数以上には待機療法が勧められると考えます。
 
私自身は,待機療法はたいへん重要な治療戦略の 1 つだと考えています。
待機療法は決して「転移するまで放っておく」ということではありませんから,待機療法より最近よく使われる「Active Surveillance」という言葉のほうが適切かもしれません。
6 か月ごとに患者を診察して,PSAのモニタリング,生検によりがんの増殖・進展の有無を確認し,必要に応じて治療を行うのです。
 
米国ではPSAスクリーニングが徹底されたことで,生命リスクの低い小さな前立腺がんが多く発見されるようになりました。
10~15%を占めるこれらの患者は,治療の必要性が低い患者と言えます。
待機療法は,不必要な治療を回避するためのたいへん重要な治療法です。


Comment
日本人独特の精神的感覚も
国立がんセンター名誉総長 垣添 忠生
まずPSA検査については,わが国では厚労省研究班と日本泌尿器科学会の指針が対立しているような形にはなっていますが,両者の指針の本質は同じだと思います。
すなわち,PSA検査を行えば,前立腺がんが多く発見されることは間違いありません。
しかし,そのなかに臨床的に必ずしも重要でないがんが含まれるため,PSA検査により前立腺がんの死亡率が下がるかどうかが明らかではないということです。
 
現在,欧米で進められている大規模臨床試験の結果でPSA検査の意義はあるという結論が得られれば,わが国でも対策型の検診としてPSA検査を取り入れる可能性はおおいにあるでしょう。
現状ではその判断ができないということで,基本的に日米の考えは同じだと思います。
 
また,最適な治療法の選択についても,基本的に日米の考え方は同じです。
ただし,日本人には,"みそぎ"という独特の感覚があるのか,体のなかにがんがあるのを知っていながら,それに手を付けないことをとても嫌がるところがある気がしています。
そのため,いったん待機療法を選択しても,途中で不安になられる患者さんも多い。
そういう精神的な問題が日米では少し違うかもしれません。
そういった問題を抜きにすれば,80歳以上の高齢者(75歳だと迷う症例もありますが)については,間違いなくかなりの症例において待機療法でいけるでしょう。
 
前立腺がんは,非常に多様性に富んだがんであり,さまざまな治療法から何を選択するかは,医師にとっても患者さんにとっても,非常に難しい作業です。患者さんが決心が付かない場合は,医師側から「私だったら(あるいは自分の家族だったら),この治療法を選択します」といった患者の肩を少し押してあげるようなことも必要ではないかと思います。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M41141131&year=2008
出典 Medical Tribune 2008.4.3
版権 メディカル・トリビューン社


<自由時間>
週末に学術講演会に行って来ました。
気になったのはあちらこちらから大きな音で鳴る携帯の呼び出しの音です。
同じ先生に数回かかってくる場合もありました。
とても社会的地位(今はそんなものはなくなって同情さえされている?)医者
の集まりとも思えない光景でした。
(衣食足りて礼節を知る)
呼び出し音はもともとご法度ですが、一度大きな音でなったらマナーモードに
切り替える、後ろの席に座るが最低のマナー。
こんな先生は来なくてよろし。

そして「DASH食とは具体的にどんなもので何の略ですか」という質問者。
何の略かも答えられない演者。
自分で調べればいいのに「DASH食」も知らない自分を皆の前にさらけ出し
ている。

どこの研究会、講演会にもいるKY。

少し後味の悪い講演会でした。

<参考サイト>
PSA集団検診
http://wellfrog.exblog.jp/6944888
http://ja.wikipedia.org/wiki/ノブレス・オブリージュ
dash食
http://www.geocities.jp/t_hashimotoodawara/salt6/salt6-04-01.html
高血圧を防ぐDASH食って?
http://allabout.co.jp/health/healthfood/closeup/CU20070122A/index3.htm


by esnoopy | 2008-04-28 00:10
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