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赤沈検査の今日的意義

赤沈(血沈)、ESR。
なんだかレトロで懐かしい言葉の響きです。
私は本来の専門は循環器内科なのですが、大学の方針で結核療養所へ派遣されていた関係もあって赤沈大好き医者です。
最近も赤沈をきっかけに多発性骨髄腫の診断が出来ました。
さて今時珍しい赤沈検査の記事が載っていました。

赤沈検査の今日的意義を再検討
医師により重要度の認識にばらつき

〔スイス・クール〕 赤血球沈降速度(赤沈)の中等度亢進の原因を解明するのはきわめて困難である。
また,急性疾患の診断法としては,赤沈よりC反応性蛋白質(CRP)のほうがはるかに優れていることも知られている。
赤沈検査に対する評価は専門家の間でも分かれているが,クール州立病院のWalter H. Reinhart教授は,同検査の今日的意義についてTherapeutische Umschau(2006; 63: 108-112)で発表した。


急性期診断ではCRPに軍配 
赤沈はフィブリノーゲンや免疫グロブリンといった高分子蛋白質の血漿中濃度を反映するため,炎症経過に対する生体の急性期反応をきわめてよく示すとされる。
しかし,赤沈の亢進が認められるのは炎症開始から約48時間後のことで,迅速検査と言えるものではない。
これに対して,CRPは炎症開始から数時間以内に上昇する。
また,炎症の消失が検査値に反映されるまで,赤沈では最長 7 日間かかるのに対し,CRPでは最長でも 2 日間しかかからない。
このため,例えば抗菌薬投与の成否の判定にはCRPが有用で,同薬投与が奏効していれば48時間以内にCRPは半減する。
したがって,急性期診断ではCRPを選択すべきである。
Reinhart教授は「赤沈の特異性も,特に中等度亢進の場合には問題で,原因を解明するための試みは徒労に終わることが多い」と述べている。
しかし,高度亢進(>80mm/h)となると話は別で,人工透析患者以外では常に,解明されるべき基礎疾患の存在を示しているという。
 
さらに,同教授は「赤血球増加症や重度の白血球増加症など,赤血球の沈降を抑制する影響因子は多く存在するため,赤沈が正常であっても健常者であることの証明とはならない」と指摘。
「このため,赤沈は無症候の患者に対するスクリーニング検査としては適しておらず,ルーチン検査や健康診断のパラメータとしての使用も控えるべきである」と強調している。
 
しかし,特定の疾患においては,赤沈検査がきわめて重要であることに変わりはない。
例えば,リウマチ性多発筋痛症や側頭動脈炎の診断では赤沈検査は欠かせないもので,IgGやIgAなどのM-蛋白質により血沈が高度に亢進する多発性骨髄腫でも同様である。
さらに,赤沈は慢性炎症性疾患の経過を示すパラメータとして価値があり,リウマチ性多発筋痛症や側頭動脈炎ではステロイド療法の管理に適している。
また,エリテマトーデスではCRPは正常値を示す可能性があるが,赤沈は疾患活動性を示す指標として適切である。
 
最後に,同教授は「赤沈は疾患の予後評価に有用だということも忘れてはならない。例えば,ホジキン病患者でひとまず治療が奏効した後の赤沈亢進は早期再発の警告信号と捉えるべきで,新たに診断された前立腺癌や腎細胞癌における赤沈亢進は,生存期間が短いことを示唆している。さらに虚血性脳卒中などの非悪性疾患においても,急性期の赤沈亢進は予後の悪化を示唆している」と説明した。


ルーチン検査として評価する声も 
Reinhart教授の報告とは異なる意見も存在する。
独ハンブルクの内科医,Thomas Menzel博士は「赤沈をルーチンなパラメータとして使用しないとの考えには反対だ。私自身は,赤沈が正常であれば,患者には炎症が生じていないと説明している」と語った。
同博士は赤沈の中等度亢進が認められた場合,まず,比較的最近の感染の有無や胆汁が関与する問題についての問診を行っており,それが慢性胆嚢炎などの発見につながることも多いという。
さらに,患者が喫煙者であれば,胸部X線撮影,赤沈の再測定を実施することにより,比較的多くの症例で疾患の同定が可能である。
同博士は「以前,大学病院に勤務していたころに赤沈の解明のみを理由として患者を検査漬けにした事例を数多く見てきたが,これは当然,無意味で,やみくもに臨床検査を指示するつもりは全くない」と付け加えた。
 
独ベヒテルスバッハの一般医,Carl Nickel博士は「私自身は赤沈を相変わらずルーチン検査として,健康診断でもCRPと併せて利用している。
私にとって,赤沈は診断精度を高めるために欠かせないもので,中等度亢進が認められたら,特に血液像,白血球百分率,さらには甲状腺,腎臓と肝臓の検査値を重点的に調べている」と説明。
「これにより,約50~60%の症例で,それまで見つからずにいた疾患を発見できており,それが悪性疾患であることも珍しくない。
つい最近も,赤沈の中等度亢進が認められた患者から副腎腫が見つかった。
CRPが境界値かつ赤沈が中等度亢進の症例において,悪性疾患が発見されることは少なくない」と述べた。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M3929072&year=2006
出典 Medical Tribune 2006.7.20
版権 メディカル・トリビューン社


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