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各国の肝癌の診断と治療 その1(1/2)

肝癌の診断と治療法も国によって違うようです。

特別企画
座談会
日本・アジア・欧州における肝癌の診断と治療


現在,肝細胞癌による死亡者は世界中で年間60万人から70万人に及ぶとされ,東南アジア,アフリカだけでなく欧米でも増加傾向にある。
10~20年前には関心の低かった欧米でも近年,肝細胞癌が注目されるようになった。
しかし,長年経験を重ねてきた日本やアジアとの間には,診断や治療に対する考え方やアプローチにまだかなり異なる点がある。
その背景には
肝細胞癌のほとんどがウイルス性肝炎から発症する日本と違い,欧米ではアルコール性肝障害や原因不明の非ウイルス性の肝細胞癌が大部分であり,こうした疫学の違いが少なからず関係しているようだ。
本座談会では「日本・アジア・欧州における肝癌の診断と治療」と題して,日本,韓国,スペインの肝細胞癌の専門家4氏が,診断や治療をめぐる各国の状況について討議した。

司会
神代 正道 氏
久留米大学名誉教授,柳川病院特別顧問
出席者(発言順)
Jordi Bruix 氏
バルセロナ大学内科教授,Barcelona Clinic Liver Cancer Group主任
Kwang-Hyub Han 氏
延世大學校医科大學消化器内科教授
工藤 正俊 氏
近畿大学医学部消化器内科学教授


肝細胞癌の診断
欧米:腫瘍マーカーによらず画像検査で
神代 
まず肝細胞癌の診断をめぐる状況についてお伺いします。
Bruix先生は欧州肝臓学会(EASL)および米国肝臓学会(AASLD)の肝細胞癌に関するガイドライン作成の中心的な役割を担っておられますが,まず欧米の状況についてお聞かせください。

Bruix 
欧州と米国ではガイドライン内容の統一を図ろうとしています。
欧米では肝細胞癌に関する疫学や治療等の決定因子の多くは共通していますが,欧州では肝細胞癌の診断・治療に関する研究に長年取り組んでいること,スクリーニングプログラムの実施等で米国をかなりリードしていると言えます。
一方,米国では従来の知見が軽視され,画像診断技術に関心が向きがちでしたが,最近ではこうした問題も改善されつつあるようです。
 
ガイドラインについてですが,肝細胞癌の診断は腫瘍径の大きな病変/進行性の病変と早期の病変の2つに大別できます。
欧州および米国のガイドラインでは,径が2cm以上の病変において,画像検査で動脈性のhypervascularityの後に静脈相でwashoutが認められれば,それが肝硬変でも肝細胞癌と確定診断できるとしています。

早期の病変については,一致したデータが得られていないため議論が続いていますが,私たちは前向き研究で欧州の基準の有用性を確認しました。
1~2cmの病変があり,動脈濃染と静脈のwashoutが認められれば,肝細胞癌と診断されます。
ただ,この診断方法だけでは偽陽性の可能性もあり,例えば,画像上の確認が難しい10mm未満の腫瘍の場合には,診断や経過観察を完全に行う方法はなく,課題が残ります。
 
次に治療レベルですが,欧州では肝移植だけでなく効果的な内科治療を受けられる施設がごく一部しかありません。
市中病院の技術は最適とはいえず,進行性の肝細胞癌に対しても頻繁に生検やCT,MRIを行うことはありません。

神代 
スペイン,イタリア,フランスは他の国よりもレベルが高いとされていますが,同じ欧州でも国により診断レベルに大きな違いがあるようですね。

韓国:腫瘍マーカーの有用性にも期待
神代 
韓国の状況はいかがですか。日本と似ていると思いますが。

Han 
欧州のガイドラインに基本的に同意しますが,一部,異なる点があります。
1 つは生検です。
これまで論文を投稿しても生検をしていないという理由で却下されることが多かったのですが,私たちは必ずしも生検は必要ないと考えています。
この点については,2001年のバルセロナのコンセンサス会議で生検によらない診断が支持されましたので評価しています。
 
もう1つは腫瘍マーカーです。
AFPやPIVKA-IIが有用だと考えています。
私たちは長期にわたる経過観察中に新たに認められた腫瘍について調査していますが,一部の腫瘍ではPIVKA-IIと腫瘍径の拡大の間に強い関係が認められます。
そうした腫瘍は2cm未満のこともあり,生検は必要ありません。
腫瘍マーカーは,すべての症例でというわけではありませんが,肝細胞癌の早期診断の感度や特異度を高める可能性があります。
韓国では腫瘍マーカーは非常に安価ですので,スクリーニング実施の観点からも有用性にも期待しています。
それに対して,超音波検査は非常に高価なため,スクリーニングのネックになっています。
 
画像診断については,私たちは通常,CTスキャンを行い,それで結論が得られなければMRIを使用します。
しかし,
バルセロナのコンセンサスでは,診断ツールとしての血管撮影使用が否定されました。
ですから,血管造影の有用性を検討する前向き無作為化試験を実施する必要があると考えています。
血管造影は欧州では非常に高価な方法ですが,韓国ではそれほどではなく,MRIとほぼ同じぐらいです。
また,最近,私たちの施設ではPETスキャンを導入しました。
診断ではなく,治療経過をモニタリングするためです。
他の方法ではわからない腫瘍の変化も捉えられるものと期待しています。


日本:高リスク群は6か月毎の超音波と腫瘍マーカーで


神代 
工藤先生,日本における肝細胞癌の診断について紹介していただけますか。

工藤 
日本では20年前に全国的なスクリーニングプログラムが確立されました。
最近発表されたわが国のガイドラインでは,超高リスク群としてB型肝硬変およびC型肝硬変が示されています。
これらの患者に対しては
3~4か月毎の超音波,3~4か月毎の腫瘍マーカー,12か月毎のダイナミックCTあるいはダイナミックMRIが推奨されています。
腫瘍マーカーはAFP,AFPL-3およびPIVKA-IIの3種類です。
また,<
span style="color:rgb(255,0,0);">高リスク群としてはC型肝炎,B型肝炎,および非ウイルス性肝硬変
が示され,6か月毎の超音波検査,6か月毎の腫瘍マーカー測定が推奨されています。
こうしたスクリーニングが日本では全国のほとんどの病院で行われています。
欧米のガイドラインと日本のガイドラインでは,腫瘍マーカーとスクリーニング
の間隔が異なります。
 
日本では画像診断には偽陽性や偽陰性の問題があるため,画像診断だけで検討することはほとんどありません

APシャントや不規則なhyper-enhancing areaを有する症例ではAFP,AFPL-3,およびPIVKA-IIが肝細胞癌の診断に役立ちます。
2001年のEASLガイドラインはAFPを含めましたが,2006年の改訂版(EASL2006)では,肝細胞癌の診断・治療において推奨される腫瘍マーカーのうち,陽性率や特異度が低いことを理由として,AFPが除外されました。
おそらく日本の肝臓専門医の多くは,なぜAFPを除外したのか理解できないと思います。
この点は欧米と日本のきわめて大きな違いです。
 
さらにEASL2006と日本のガイドラインのもう1つの違いはダイナミックスタディーです。
EASL2006では,1~2cmの結節に対して2つのダイナミック画像による診断を同時に行う必要があるとされています。 しかし,
肝癌結節ではhypervascularityと静脈相のwashoutが典型的ですので,1つのダイナミックスタディーの画像診断で十分と考えられます。

腫瘍マーカーの位置付け神代 
欧米とアジアの違いとして,腫瘍マーカーの位置付けやスクリーニングの間隔などが指摘されました。
Bruix先生,欧米のガイドラインではなぜ腫瘍マーカーが除外されたのですか。
日本では25~30年前までは肝癌の多くは進行した状態で診断され,平均生存期間は3~6か月でした。
しかし,高リスク集団が確立され,AFPを含めスクリーニングプログラムの全国実施により診断能が劇的に改善しました。
この点についてどうお考えですか。

Bruix 
欧米にも腫瘍マーカーが有用なツールであると考えている人たちもいます。
私も腫瘍マーカーの有用性を否定するわけではありませんが,ガイドラインで診断ツールの1つとして取り上げるためには,その有用性を証明するデータが必要です。
とりわけ米国ではそれが強く求められます。
 
20年ほど前,私が肝癌の研究を始めた頃,欧米では肝癌は存在しないと思われていました。
私は最初の論文を米国の雑誌に投稿しましたが,その論文も受理されませんでした。
ところが,1990年に日本に来たとき,ここでは肝臓病が先進的な病理学者によって適切に分類され,超音波で肝癌が見つけられていました。
もちろんコホートやリスクファクターは違うのですが,基本的なところは欧州と同じでした。
 
当時,画像診断の感度や特異度は十分ではなく,腫瘍マーカーが非常に有用でした。
しかし,画像診断技術が格段に進歩した現在,腫瘍マーカーの使い方は難しくなっています。
hypervascularityが確認された場合,腫瘍マーカーの異常の有無にかかわらず肝細胞癌と診断できます。
一方,hypervascularityが確認されない腫瘍に対しては,腫瘍マーカーの有用性を検討した研究が非常に少ないため,現時点では肝生検を実施せざるを得ないと考えています。
ですから,腫瘍マーカーがガイドラインで取り上げられるためには,実際の臨床における腫瘍マーカーの役割を明らかにするため大規模コホート研究などを実施し,そこで有用性を証明する必要があります。ただ,近い将来,画像診断を補完する新たな腫瘍マーカーが出てくる可能性はあります。

工藤 
一般臨床でAFPを測定しないのですか。

Bruix 
測定しません。
最近,肝硬変患者をAFPやPIVKA-IIなどの生化学検査と超音波検査で1年毎に経過観察する研究を終了したところですが,AFPもPIVKA-IIも有効性は認められませんでした。
米国立衛生研究所(NIH)もアラスカで同様の研究を実施しましたが,有効性は認められませんでした。

神代 
AFP-L3についてはどうですか

Bruix 
腫瘍マーカーに可能性があるとすれば,それは再発や急速な進展のリスクの予測だろうと思います。
例えば,肝移植の優先度を決定するパラメータの1つになる可能性があります。もしAFPが100を超える腫瘍であれば,それはAFPを産生しない腫瘍に比べてリスクが高いとみなされます。AFP-L3およびPIVKA-IIについても,そういう状況での可能性はあると思います。

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by esnoopy | 2008-05-16 00:13 | 消化器科
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