各国の肝癌の診断と治療 その2(2/2)

スクリーニング間隔をめぐる問題

神代 
スクリーニングの間隔についてはいかがですか。
工藤先生が紹介されたように日本では,超高リスク群は3~4か月毎に経過観察するとしていますが。

Bruix 
間隔はリスクのレベルではなく,腫瘍の成長速度に基づくべきだと考えています。
なかには腫瘍の発症リスクが非常に高い患者もいますが,一般に腫瘍はそれほど早くは成長しません。
欧米のガイドラインでは6か月毎としていますが,これは6か月毎の超音波検査で経過観察を実施した研究を踏まえています。
中国で実施された研究であり,唯一の研究です。
肝硬変患者は6か月毎に1.5%を超える頻度で肝細胞癌を発症することが示されました。
正常肝や慢性肝炎の人ではこれよりも低い頻度で発症します。
現在,フランスでも6か月毎と3か月毎の経過観察を比較する無作為化比較試験が進められています。

工藤 
しかし,C型肝硬変からの肝発癌の頻度は日本と欧米では違います。日本では毎年7~8%と高率です。

Bruix 
確かに高いと思いますが,それはコホートのリスクに依存します。

工藤 
高リスク群では間隔を短くすべきだと思います。

Bruix 
現在,欧州の肝細胞癌のほとんどはアルコール性肝炎によるもので,多少の差はあるものの男性が多く,50歳より高齢です。
他の新たなパラメータを見出すことは困難ですし,検査間隔の短縮はさほど重大な事項とは考えていません。

Han 
腫瘍の倍化時間に基づいて経過観察の間隔を決定するというBruix先生の考えに同意しますが,診断の感度や特異度を上げるという意味で日本の先生方の意見にも同意します。
やはり超音波検査だけでは一部の腫瘍を見逃すことがあります。
特に大結節性肝細胞癌に類似した多結節性患者を見るのは困難ですので,こうした症例では診断ミスを避けるため頻回のスクリーニングが推奨されます。

Bruix 確かにそうです。

Han 
私たちは肝細胞癌の進行を予測するためのソフトを作成しています。
高リスク群,中リスク群,低リスク群の3群に分けていますが,おそらく高リスク群は日本での超高リスク群に含まれます。
ただ,いくつかの問題点があります。
例えば,代償性肝硬変の一部はキャリアーまたは単なる肝炎として過小評価されており,日常臨床で医師が患者に代償性肝硬変かどうか尋ねることはなく,データ集積が難しいのです。
 
最近,FibroScanRを用いて患者が高スコアか低スコアかをスクリーニングしています。
しかし,B型肝硬変はC型肝硬変と違い,評価がやや難しいのが難点です。
欧州の各国では低リスク群をスクリーニングから除外していますが,肝炎はゆっくり進行します。
それらの一部は肝硬変患者のリスク群に移行しますので早期からの注意深い観察が必要です。
現在私たちは高リスク群で3か月間隔と6か月間隔,低リスク群で1年間隔と6か月間隔の経過観察による予後の差を比較する無作為化比較試験を計画しています。

神代 病理の立場からは,B型肝硬変患者により注意を払うようにといつもアドバイスしています。
B型肝硬変とC型肝硬変では再性結節の大きさが有意に異なります。
ご存じのようにB型肝硬変は大結節性ですが,C型肝硬変は2~3mmの小結節性です。
そのため,C型肝硬変では,より小さな肝癌が診断され,B型肝硬変では進行した段階で診断される傾向があり,外科切除例で見るとC型肝硬変では腫瘍径がB型肝硬変に比べ有意に小さい結果が出ています。
こうした傾向は韓国でも見られますか。

Han 
はい。
B型肝硬変を6か月毎に経過観察していて,肝臓に腫瘍を見つけたとき,すでに肺に転移していた患者を最近経験しました。
B型肝炎ウイルスが関係する腫瘍は予測しにくいことがありますので特に注意すべきです。

Bruix 
米国のガイドラインでも,最低限注意すべきこととして,B型肝炎ウイルスと家族歴を挙げています。


肝細胞癌の治療
欧州では外科切除,韓国,日本ではアブレーション治療が第一選択

神代 
次に肝細胞癌の治療に話題を移します。
2cm未満の小さい腫瘍に対してどのような治療を選択されますか。

Han 
韓国では,一般にまず外科切除が勧められていますが,私たちはアブレーション治療のような内科的治療を勧めています。
治療の適応は患者の年齢や肝機能に応じて決めますが,アブレーション治療で十分な有効性が認められない場合には外科切除を勧めます。

神代 
アブレーション治療として何を選択されますか。

Han 
ほとんどは経皮的ラジオ波熱凝固療法(RFA)です。

Bruix 
欧州では,ほとんどの施設の第一選択は外科切除です。
最近は2cm未満の腫瘍も切除できるようになっています。
外科切除では,腫瘍の血管浸潤をチェックできます。
これは再発や播種のリスクを予測する最もよい方法です。
再発が予測される患者には肝移植を勧めます。
再発リスク予測因子が認められない患者は通常のスクリーニングで経過観察し,必要に応じてアブレーション治療で対応します。
 
ただ,最近,腫瘍が2cm以上で,移植の候補にならない患者には,最初にアブレーション治療を行うことが増えつつあります。
私たちは90%以上の患者で腫瘍の完全壊死を達成しています。
アブレーションでは血管浸潤に関する情報が得られませんが,その生命予後は外科切除とほぼ同等です。
イタリアではこうしたアプローチが多く行われており,全国規模の研究も進められています。
アブレーション治療としてはRFAがよく用いられます。
RFAが十分でない場合にはエタノール注入が行われることが多いようです。

工藤 
日本のガイドラインでは,肝機能のステージ,数,大きさを考慮した治療が推奨されています。
肝障害度(Child)A?Bの患者に対しては,単発であれば,まず外科切除,次にアブレーションを行います。
しかし,結節が2cm未満のchildB患者であれば,まずアブレーションを行います。
ただ,実際には,2cm程度の結節の患者にはほとんどの肝臓専門医がRFAを行っていると思います。
 
RFA後の壊死率はほとんどの文献が80~90%壊死としていますが,日本ではどの施設も壊死面積が100%になるまでRFAを繰り返しています。
CTによる評価で腫瘍周囲のマージンの完全な壊死が認められて初めてRFAを終了します。

Bruix 
CTはいつ行うのですか。

工藤 
翌日です。
2cm程度であれば,通常,1セッションで十分です。

神代 
日本でも,手術よりもアブレーションを希望する患者が増える傾向にありますね。

治療成績比較の問題
外科切除とアブレーションのステージングに違い


神代 
ただ,外科切除とアブレーションの選択をめぐっては議論もありますね。

工藤 
日本肝癌研究会の報告で,門脈浸潤を伴わない2cm径の腫瘍ではエタノール注入よりも手術のほうが生存率がよいことを示しましたが,最近のデータでは同追跡調査報告で,手術よりもRFAのほうが5年生存率がよいという成績も報告しています。

Han 
外科医と非外科医の間にはステージングに乖離があるように思います。
つまり,腫瘍径が同じであっても,病理学的には別のステージに分類されることがあります。
ですから,ステージングを同じにして比較すべきだと思います。

Bruix 
ステージの乖離は病理学の後ろ向き評価ではしばしば起こりますが,RFA後24時間以内にCTを実施してその所見をチェックする必要があります。
私たちはhypervascular spotがRFAによる炎症性変化を反映しやすいことを見出しました。
治療による炎症性変化を反映したものであればこのspotは3~4 週間で消失します。
ですから,アブレーションの種類にかかわらず,1週間後に造影剤検査あるいは超音波検査を行い,それで問題がなければCTあるいはMRIにより腫瘍の壊死を経過観察します。
治療の成否はこの経過観察で判明します。
それから,RFAの施行回数については,私たちは2回までとしています。
それで残った病変に対しては通常エタノール注入を行います。

神代 
韓国ではいつCTで治療効果をチェックしますか。

Han 
治療担当医の経験によります。完全と感じたら1か月後にCTスキャンを行いますが,不完全と感じたら2~3日後を勧めます。

Bruix 
効果判定の時期はアブレーションを試みた腫瘍の種類に依存するように思います。
小さい腫瘍であれば壊死していない病変はまず残っていないでしょうからCTを頻繁に行う必要はありませんが,より大きい腫瘍であれば,すべての腫瘍を除去できないことがわかっているわけですから,次の治療で標的とする病変の情報を得るためにCTでチェックする必要があります。

神代 
本日の議論からも,肝細胞癌の診断と治療をめぐる欧州,アジア,日本の一致点や相違点を垣間見ることができたと思います。
診断面では腫瘍マーカーの位置付けや経過観察の頻度に違いがあることがわかりました。
治療面では,進行病変については議論できませんでしたが,各国ともアブレーションを行うことが増える傾向にあるということでした。
今後もこうした情報交換の場をもち,肝細胞癌の診療の向上につなげることができれば幸いです。

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by esnoopy | 2008-05-19 00:05 | 消化器科
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