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麻疹 その3(3/4)

やっかいな修飾麻疹、症状だけでは診断困難
修飾麻疹とは、麻疹に対する不完全な免疫を持っている人が麻疹ウイルスに感染した場合に発症する、軽症の不全型麻疹のことをいう。

修飾麻疹では、
(1)最高体温が37℃台にとどまる、
(2)発熱が3〜4日で終わってしまう、
(3)コプリック斑(連載第1回を参照)が認められない、
(4)発疹が手足だけに出現する
—など、典型的な麻疹とは異なる経過をとるため、臨床症状だけで麻疹と診断するのは極めて困難である。
各種ウイルス学的検査を行わない限り診断が付かないため、風疹や他の発疹症と間違われることも少なくない。

修飾麻疹を発症するのは、母体からの移行免疫が残っている乳児や、ヒトγグロブリンを投与されている患者に加え、secondary vaccine failure(ワクチン接種後、年数を経たために抗体が低下した二次性ワクチン不全)の人たちに多い。
2008年は、3月16日までに診断された麻疹患者4212人のうち、7.9%が修飾麻疹であることが分かっている。

修飾麻疹は通常より感染力は弱いものの、診断が付かないまま周りへの感染源となり得るので、やっかいな存在である。
修飾麻疹を拾い上げるためには、通常の感冒様症状の患者にも、必ず麻疹患者との接触歴を聞く姿勢が重要である。
修飾麻疹では潜伏期間が通常より数日長めになることが多いので、麻疹患者との接触が疑われるエピソードから発症までの期間も参考になる。

急性期のIgGが高値でも麻疹を除外しない
修飾麻疹の患者は、多少は麻疹の免疫を持っているため、急性期から麻疹特異的IgG抗体価が高値となることが多い。
これを持って、「麻疹の免疫あり=当該疾患は麻疹ではない」と判断せずに、必ず回復期のペア血清ならびにIgM抗体を確認してほしい。
発症中に咽頭ぬぐい液あるいは血液から麻疹ウイルスゲノムを検出することが確定診断に役立つことも多い。
ただし、修飾麻疹では、IgM陰性例や麻疹ウイルスゲノムが検出できない例もあるので、複数の結果を総合的に見ることが診断に結び付く。

わが国では、幼児期の麻疹・風疹混合(MR)ワクチン接種を2回に増やし、さらに2008年4月から5年間の期限付きで、中学1年相当年齢の者(13歳になる年度)と高校3年相当年齢の者(18歳になる年度)に対する追加接種が導入された。
これは、ワクチン未接種者を拾い上げつつ、修飾麻疹を発症しやすいsecondary vaccine failureの人たちへの免疫増強効果、primary vaccine failure(ワクチン接種で免疫を獲得できなかった一次性ワクチン不全)の人たちへの免疫付与を狙ったものである。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/taya/200804/505943.html

出典 日経メディカルオンライン 2008. 4. 3
版権 日経BP社


<参考ブログ>麻疹 その1(1/4)
http://wellfrog.exblog.jp/8666694/
麻疹 その2(2/4)
http://wellfrog.exblog.jp/8668091/

<番外編>
たかが風邪薬、されど風邪薬―医師も投薬に悩みあり 
今年のはじめにこんな事故があったのをご記憶でしょうか?
2008年1月14日、午前9時半ころ、山形県鶴岡市の国道112号線月山第2トンネル内で高速バスの男性運転手(52歳)が意識もうろう状態に陥りました。異常に気が付いた乗客の男性がとっさにハンドルを操作して、バスは、タイヤを道路左側の縁石にこすらせ、ノッキングを起こして停車しました。乗客26人は無事だったとはいえ、一つ間違えば大惨事となるところでした。
 
バス会社によると、この運転手は前日から風邪気味で前日と事故当日の朝に風邪薬を飲んだということです。事故当日の朝には37度台の熱があったそうですが、事故後の受診でインフルエンザと診断されています。

従来から「インペアード・パフォーマンス」(気づきにくい能力ダウン)の研究を続けている東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの田代学准教授(核医学)らのグループは、このバス事故を受けて、次のような実験結果を発表し、抗ヒスタミン薬の服用と運転危険について警鐘を鳴らしています。

実験の方法は、14名の健常若年成人男子に、抗ヒスタミン薬(d-クロルフェニラミン 6mg 複効錠:長い時間をかけてゆっくり吸収されるタイプ)とプラセボ(乳酸菌製剤)を内服させ、約2時間後に自動車運転シミュレーションシステム上で運転をしてもらい、そのときの主観的眠気、運転パフォーマンスを記録し、さらにPETを使って運転中の脳血流の変化を調べるというものです。

実験結果は、主観的眠気の強さは、プラセボと鎮静性抗ヒスタミン薬の条件の間にほとんど差が認められませんでしたが、抗ヒスタミン薬内服時に、プラセボ内服時にくらべて、蛇行運転回数が大幅に増加し、PET画像解析の結果、安静閉眼状態と比較して運転操作中には、一次運動-感覚野、運動前野、視覚野、頭頂葉、帯状回、側頭葉、小脳、中脳、視床など、非常に多くの部位に有意な局所脳血流量増加が認められています。
研究グループは以下のように考察をまとめています。

今回の研究では、抗ヒスタミン薬を服用した本人がはっきりした眠気を感じてはいなかったのに、運転中の蛇行運転の頻度が大きく増えていた。また、鎮静性抗ヒスタミン薬内服後の運転操作中に脳の反応がとくに抑制された視覚野、頭頂葉、側頭葉、小脳などは、動きをともなう視覚情報を処理して次の瞬間の最適な動作を決めていくための情報伝達経路とだいたい一致していた。
以上のことから、鎮静性抗ヒスタミン薬内服後の視覚系の情報処理機能の抑制が、運転に必要な神経回路の活動を不十分なものにしてしまったために運転パフォーマンスの低下をひきおこした可能性が高いと考えられた。この研究成果は薬理学の専門誌(Human Psychopharmacology:タイトル和訳は「ヒト精神薬理学雑誌」)の2008年3月号に掲載された。
研究グループは、PETを駆使して、抗ヒスタミン薬が脳の情報伝達をブロックする強さ(脳内ヒスタミンH1 受容体占拠率)の測定も実施してきた。
また、鎮静性抗ヒスタミン薬の服用後の自動車運転中にブレーキペダルを踏むのが遅れること、携帯電話通話による遅れと相乗効果があることを実車運転試験によって初めて報告していた(プレスリリース2005年6月23日)。
こうした研究の蓄積の結果、将来、さらに総合的な研究成果が報告されることが期待される。

以前から抗ヒスタミン薬を服用すると眠くなるということはよく知られています。
より眠くならない抗ヒスタミン剤の開発もされているわけですが、そもそも本人が感じる眠気には個人差と変動がありますから、交通事故に限らず眠気がトラブルを誘発しかねないと危惧すれば風邪薬を服用したり、処方するのも容易なことではありません。

この実験では、風邪を引いたり、花粉症の状態の被験者ではなかったのでしょうが、実際の患者さんでは風邪で発熱していたり、花粉症で鼻水ズーズーで体内にもヒスタミンたっぷり、そのような状態自体で眠たい、倒れ込みたいというケースも少なくありません。

たかが風邪薬、されど風邪薬―医師も投薬に悩みあり
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/takenaka/200804/506312.html
出典 日経メディカル オンライン 2008. 4. 29
版権 日経BP社


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by esnoopy | 2008-04-30 00:31 | 感染症

前立腺がん (世界の権威に聞く )

Peter T. Scardino
スローン・ケタリング記念がんセンター(MSKCC)外科部長
コーネル大学泌尿器科教授。ニューヨーク州立大学Downstate医療センター教授。
前立腺がんの早期発見,予後,治療について高い見識を持つ前立腺がん専門の外科医。MSKCCの前立腺がんプログラム長。Nature Clinical Practice Urology誌編集長。

 
食生活の欧米化など生活習慣の変化に伴い,日本では前立腺がんが増加の一途をたどっている。
2020年には前立腺がんが男性のがん罹患率の2位に浮上すると予測される
なか,その早期発見と治療対策の重要性が増している。
スローン・ケタリング記念がんセンター外科のPeter T. Scardino部長に,「前立腺がん先進国」とも言える米国における前立腺がん医療の最新事情について聞いた。


米政府はPSA検診を容認
日本では,PSA(前立腺特異抗原)検査の集団検診について,厚生労働省研究班と日本泌尿器科学会から正反対の指針が出されている状態なのですが,米国ではどのような状況ですか。
日本と同様に米国でも,政府は前立腺がんのためのPSAスクリーニングを奨励していません。
これは, PSAスクリーニングが長期予後を改善するという「明確な」裏づけとなる長期大規模ランダム化臨床試験がまだ完了していないためです。
国の指針として正式に推奨するには,長期検討試験の結果が必要だということです。
 
しかし,
PSAスクリーニングが前立腺がんの早期発見をもたらし,予後改善に役立つことは,既に多くのランダム化臨床試験で明らかにされています。
例えば,オーストリアの大規模コホート研究では,住民に対するPSAスクリーニングを実施した地域では,12年間の前立腺がん死亡リスクが,スクリーニングを行っていない地域より50%以上低いことが示されていますし,米国では, PSAスクリーニングが徹底されるようなった過去12~14年に前立腺がん死亡率が30%以上減少しました。
 
このようにPSAスクリーニングの有用性を支持する十分なエビデンスがあるため,日本と同様に米国でも,学会や医師はPSAスクリーニングを強く推奨していますし,
政府もPSAスクリーニングを容認しています。

前立腺がんには多くの治療選択肢があり,そのなかから最適な治療法を選択するのは容易でないと思われますが,米国では治療選択の際,患者にどのように説明しているのでしょうか。

確かに前立腺がんの治療選択は容易でないかもしれません。
しかし別の見方をすれば,前立腺がんには効果的な治療法がそれだけ多く存在するということです。
そこでわれわれは,主要な治療法について個々のリスクとベネフィットを説明し,患者が自分に最も適した治療法を選択する手助けをしています。

 
例えば局所前立腺がんの場合,
第 1 に進行度,悪性度,PSA値の高い局所前立腺がんに対しては,無治療のままより治療をしたほうがよいということ,
第 2 に,手術療法と放射線療法のどちらがよいかは明らかではないが,いずれも満足な成績が期待できる治療法であり,どの治療法を選択するかよりも,むしろ熟達した医師に施術してもらうことのほうが好成績を得るには重要であること,
第 3 に,合併症のある患者や高齢患者などで,手術療法も放射線療法も適用できない場合には,ホルモン療法を行うが,根治療法にはならないので,通常の局所前立腺がんに対しては勧められないこと
などを説明します。


患者の年齢や進行度に応じて,選択肢は変わってくるわけですね。
その通りです。
例えば70歳以上の高齢者では,尿失禁や性機能障害など手術合併症のリスクが高まりますから,放射線療法を勧めるのが一般的です。
一方,70歳未満の場合は,余命が長く,手術療法のほうがより良好な腫瘍抑制効果が期待できること,万が一,治療に失敗した場合も放射線療法を行えることから,手術療法を勧めることが多いのですが,放射線療法も選択肢の 1 つであることに変わりはありません。
 
また局所進行型で悪性度の高い前立腺がんでは,単独療法では十分な治癒率が期待できないため,放射線療法とホルモン療法の併用などの方法が取られます。
つまり,T1~T2の低分化の前立腺がんに対しては,患者の好みと年齢に応じて手術療法と放射線療法のどちらを選択してもよいのですが,T3の局所進行型の患者に対しては,放射線療法後にホルモン療法を併用し,その後ホルモン療法を継続していくことが多いと言えます。


ホルモン療法不応例はどう治療すればよいのでしょうか。
ホルモン療法不応例の治療は難題ですが,1 つの選択肢として化学療法が挙げられます。
現時点では,タキサン系の化学療法薬が生存延長をもたらすことが証明されていますし,化学療法薬については多くの有望薬が登場しており,これらのいずれかがホルモン療法不応例の治療に一石を投じてくれるかもしれません。
もう 1 つは,別のホルモン療法への変更です。
ホルモン療法不応例は一切のホルモン薬が奏効しないわけではなく,例えば最初の抗アンドロゲン薬に失敗した後,第 2,第 3 の異なる抗アンドロゲン薬に変更しながら腫瘍をコントロールしていくことが可能です。
いずれにせよこの領域では,現在,興味深い治療法が開発され,臨床試験が活発に進められています。


長期成績に優れた密封小線源法
日本では,まだ局所療法として放射線療法の行われる比率が低いのですが,先生は同療法についてどのような見解を持っておられますか。
米国では近年,組織内照射療法(密封小線源療法)の 1 つであるseed implant法が多く行われるようになってきました。
しかし,線源の埋め込みには熟達した技術が必要で,施術する医師の技量により成功率,副作用発現率が大きく異なります。
一方,外照射法の治療成績は装置に委ねられるところが大きいため,密封小線源療法ほど施術者の技量が影響することはありません。
特に手術療法による合併症リスクの高い高齢者にとっては,たいへん有効な治療法だと考えます。
 
1 つ問題となるのは,局所前立腺がんに対して十分な効果を得るためには,70Gy以上の高線量の照射が必要な点です。高線量を用いた場合の有効性は高く,正常組織への安全性を確保しながら目標部位のみへの高線量照射が可能な強度変調放射線療法(IMRT)を用いた最近の研究では,81Gy,86Gyという高線量照射により,90%の患者でがん細胞の完全消失が確認されました。


米国では密封小線源療法の普及などにより待機療法を選択する比率が減少していると聞きます。
確かに70歳未満の患者では待機療法が減り,手術療法または放射線療法の比率が増えてきています。
しかし,75歳以上の高齢者にとっては重要な治療法であり,これらの患者の半数以上には待機療法が勧められると考えます。
 
私自身は,待機療法はたいへん重要な治療戦略の 1 つだと考えています。
待機療法は決して「転移するまで放っておく」ということではありませんから,待機療法より最近よく使われる「Active Surveillance」という言葉のほうが適切かもしれません。
6 か月ごとに患者を診察して,PSAのモニタリング,生検によりがんの増殖・進展の有無を確認し,必要に応じて治療を行うのです。
 
米国ではPSAスクリーニングが徹底されたことで,生命リスクの低い小さな前立腺がんが多く発見されるようになりました。
10~15%を占めるこれらの患者は,治療の必要性が低い患者と言えます。
待機療法は,不必要な治療を回避するためのたいへん重要な治療法です。


Comment
日本人独特の精神的感覚も
国立がんセンター名誉総長 垣添 忠生
まずPSA検査については,わが国では厚労省研究班と日本泌尿器科学会の指針が対立しているような形にはなっていますが,両者の指針の本質は同じだと思います。
すなわち,PSA検査を行えば,前立腺がんが多く発見されることは間違いありません。
しかし,そのなかに臨床的に必ずしも重要でないがんが含まれるため,PSA検査により前立腺がんの死亡率が下がるかどうかが明らかではないということです。
 
現在,欧米で進められている大規模臨床試験の結果でPSA検査の意義はあるという結論が得られれば,わが国でも対策型の検診としてPSA検査を取り入れる可能性はおおいにあるでしょう。
現状ではその判断ができないということで,基本的に日米の考えは同じだと思います。
 
また,最適な治療法の選択についても,基本的に日米の考え方は同じです。
ただし,日本人には,"みそぎ"という独特の感覚があるのか,体のなかにがんがあるのを知っていながら,それに手を付けないことをとても嫌がるところがある気がしています。
そのため,いったん待機療法を選択しても,途中で不安になられる患者さんも多い。
そういう精神的な問題が日米では少し違うかもしれません。
そういった問題を抜きにすれば,80歳以上の高齢者(75歳だと迷う症例もありますが)については,間違いなくかなりの症例において待機療法でいけるでしょう。
 
前立腺がんは,非常に多様性に富んだがんであり,さまざまな治療法から何を選択するかは,医師にとっても患者さんにとっても,非常に難しい作業です。患者さんが決心が付かない場合は,医師側から「私だったら(あるいは自分の家族だったら),この治療法を選択します」といった患者の肩を少し押してあげるようなことも必要ではないかと思います。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M41141131&year=2008
出典 Medical Tribune 2008.4.3
版権 メディカル・トリビューン社


<自由時間>
週末に学術講演会に行って来ました。
気になったのはあちらこちらから大きな音で鳴る携帯の呼び出しの音です。
同じ先生に数回かかってくる場合もありました。
とても社会的地位(今はそんなものはなくなって同情さえされている?)医者
の集まりとも思えない光景でした。
(衣食足りて礼節を知る)
呼び出し音はもともとご法度ですが、一度大きな音でなったらマナーモードに
切り替える、後ろの席に座るが最低のマナー。
こんな先生は来なくてよろし。

そして「DASH食とは具体的にどんなもので何の略ですか」という質問者。
何の略かも答えられない演者。
自分で調べればいいのに「DASH食」も知らない自分を皆の前にさらけ出し
ている。

どこの研究会、講演会にもいるKY。

少し後味の悪い講演会でした。

<参考サイト>
PSA集団検診
http://wellfrog.exblog.jp/6944888
http://ja.wikipedia.org/wiki/ノブレス・オブリージュ
dash食
http://www.geocities.jp/t_hashimotoodawara/salt6/salt6-04-01.html
高血圧を防ぐDASH食って?
http://allabout.co.jp/health/healthfood/closeup/CU20070122A/index3.htm


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by esnoopy | 2008-04-28 00:10

PERISCOPE試験

ピオグリタゾンは2型糖尿病患者の冠動脈プラークの進展を抑制する:PERISCOPE試験
インスリン抵抗性改善薬ピオグリタゾン(アクトス(R))は、スルホニル尿素薬グリメピリドに比べ2型糖尿病患者の冠動脈プラークの進展を有意に抑制することが、北米と南米で実施された多施設共同二重盲検無作為化試験PERISCOPE(Pioglitazone Effect on Regression of Intravascular Sonographic Coronary Obstruction Prospective Evaluation)により明らかにされた。
冠動脈プラークの進展に対する抑制効果が示された糖尿病治療薬はこれまでなかった。


ピオグリタゾン群とグリメピリド群の冠動脈プラークの進展をIVUSで評価
2003年8月~2006年3月に、冠動脈疾患を有する2型糖尿病患者543例が、北米および南米の97施設から登録された。全例に冠動脈血管内超音波(IVUS)が施行され、ピオグリタゾン(15~45mg)群(270例)あるいはグリメピリド(1~4mg)群(273例)に無作為に割り付けられた。
18ヵ月の治療期間に、認容性がある場合は最大用量まで漸増した。冠動脈プラークの進展は試験終了時のIVUSで測定し、360例(ピオグリタゾン群:179例、グリメピリド群:181例)が検査を受けた。主要評価項目は、%プラーク体積(PAV:Percent Atheroma Volume)のベースラインから試験終了までの変化とした。


結果 
省略

結論

ピオグリタゾンは、グリメピリドに比べ2型糖尿病患者の冠動脈プラークの進展を有意に抑制した。
ピオグリタゾン治療を受けた患者では、広範なサブグループにおいて冠動脈プラークの進展が抑制された。

これらの知見は、動脈硬化進展リスクの高い2型糖尿病患者に対する治療戦略の決定において大きな意義をもつ可能性がある。

監修者のコメント
本試験は、インスリン分泌を増加させるスルホニル尿素系抗糖尿病薬グリメピリドと比較して、インスリン抵抗性を改善しインスリン分泌低下に働くチアゾリジンジオンであるピオグリタゾンの方が、冠動脈プラークの進展を抑制することを、直接的な血管内エコー検査(IVUS)を用いて証明した。 
これまでに、同様の研究プロトコールで、グリメピリドとピオグリタゾンの頚動脈内膜中膜肥厚の進展抑制効果を比較したCHICAGO試験(Carotid intima-media tHICkness in Atherosclerosis using pioGlitazOne)があるが、この研究においてもピオグリタゾンの方が有意に頸動脈肥厚の進展を抑制している。 
PERISCOPE試験とCHICAGO試験に共通している脂質への影響として、グリメピリドとピオグリタゾンのLDLコレステロールに対する効果には差がない。
しかし、ピオグリタゾン群ではトリグリセリドが低下し、HDLコレステロールが増加している。
これらのメタボリックシンドロームに関連する脂質代謝異常への影響は、一部はピオグリタゾンのアディポネクチン上昇とインスリン抵抗性改善作用によると考えられる。
今回のPERISCOPE試験では、実際に血漿インスリンレベルの低下もみられている。

これらグリメピリドとピオグリタゾンを比較した2つの研究でみられた糖尿病患者の動脈硬化進展抑制効果は、どのような薬剤で血糖を低下させるか、すなわち血糖低下療法の“質”の重要性を示している。

糖尿病を合併する高血圧患者にはレニンアンジオテンシン系抑制薬が推奨される。
基礎実験において、カンデサルタンとピオグリタゾンの併用が心血管保護につながることが示されており(2008年1月28日掲載「ピオグリタゾンの糖代謝を介さない直接的臓器保護作用。カンデサルタンで増強」、Nakamura T et al. Hypertension. 2008; 51: 296-301.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18158350?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum)、日常臨床でもカンデサルタンとピオグリタゾンの併用が、更なる臓器保護作用をもたらす可能性がある。
([監修] 自治医科大学 循環器科 教授 苅尾七臣)


原著
Nissen SE et al. JAMA. 2008; 299: 1561-1573.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18378631?ordinalpos=22&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum出典
ピオグリタゾンは2型糖尿病患者の冠動脈プラークの進展を抑制する:PERISCOPE試験
http://www.carenet.com/news/cardiology/newsnow/det.php?nws_c=3548
(パスワードが必要です)
版権 CareNet.com

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神戸 文子 「ばら」 F8 日展特選画家http://page16.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/u24340627

<番外編>
m3.comニュースより
日本医師会の唐澤祥人会長は18日、2期目続投以降初めて本紙の単独インタビューに応じ、社会保障費の伸びを毎年2200億円圧縮する抑制策について、「医療費が伸びる伸びると言うが、もうそれほど伸びないはずだ。伸びるからと過度の抑制策を継続すれば、日本の医療を本当に壊してしまう」と訴えた。
その上で「この素晴らしい医療提供体制を絶対に壊すべきではない。私も助けられた。恩返しがしたい」とも語り、小脳出血から自身を救ってくれた日本の医療提供体制を守るためにも、政府に対して医療費抑制策の転換を強力に要請していく考えを示した。

唐澤会長は道路特定財源をめぐる議論を引き合いに、「道路財源を一般財源化する方向を考えているようだが、そうすると2200億円はどうなるのかということもある。なぜ、これほどまで社会保障費を圧縮しようとするのか分からない」と指摘。
その上で、「道路の40兆円、50兆円と比べれば、2200億円は大した額ではない。行政にとっては、これぐらいわずかだから抑えようということかもしれないが、われわれにとっては大問題だ。与党の皆さんには、われわれの立場を理解してほしいと思っている」と述べ、継続的にロビー活動を展開する意気込みを示した。

医療の主体は国民
今年度の診療報酬改定で創設され、地域医師会で届け出拒否を呼び掛ける動きが出ている「後期高齢者診療料」については、「主治医とか担当医とか、これまでなじみのない制度が導入されたかのように言われているが、選択肢の1つとして、こうしたやり方もあるというメニューが出されたにすぎない」と説明。
その上で「医療の主体は国民」と強調し、「制度が先にあって医療を決めていくのではなく、社会の疾病構造や人口の変化、産業・経済の状況などを踏まえて、国民が選択した方式に従って取り組んでいくことが重要だ」と述べた。
また、厚生労働省が構想している「総合科」についても、「行政サイドが制度で医師を枠にはめていくという体制は、われわれにはなじまないし国民も喜ばない」と批判。
日医が検討している「総合医」については、「医師の進む道を根本的に考える、あるいは考える機会としての研修と位置付けている」とした。
http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&articleId=717712008年4月23日


<コメント>
老齢者が増え、(偏在は別問題として)医師が増えれば当然医療費は伸びるはず。
「もうそれほど伸びないはず」という発言。
そんなこと言っていて本当に大丈夫だろうか。
小脳出血を起こしたこと自体、脳動脈硬化があることを証明したみたいなもの。
しかし、「なぜ、これほどまで社会保障費を圧縮しようとするのか分からない」というところは医師の誰もが同意見です(自民党べったりの会長としては矛盾に満ちた発言ではありますが)。

「医療破れて道路あり」

日医会長に唐沢氏が再選
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20080401-OYT8T00437.htm任期満了に伴う日本医師会の会長選は1日、投開票が行われ、現職で東京都医師会所属の唐沢祥人(からさわよしひと)氏(65)が、新人で兵庫県医師会所属の下間秀晃(しもつまひであき)氏(47)を大差で下し、再選された。任期は2年。
投票は全国の都道府県医師会から選ばれた代議員352人が行い、白票などを除き、唐沢氏が304票、下間氏が27票を獲得した。
(2008年4月1日 読売新聞)

日医会長に唐沢氏再選 診療報酬プラス改定で「無風」
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/natnews/science/134373/唐沢氏は与党と緊密に連携する路線をとり、本年度の診療報酬改定では医師の技術料などの「本体部分」を8年ぶりにプラス改定に導いた。こうした路線が会員に支持されたとみられ、選挙戦はほぼ無風だった。

<コメント>
「本体部分」を8年ぶりにプラス改定
「無風」再選の理由はそういうことだったのか。
内科医は4月からみんな泣いているというのに。
私のようなシモジモには今までどのような実績を残された会長かはわかりませんが、これから2年この会長に託すことになったんですね。
2年前の会長就任時、小泉政権と積極的に関係を改善することを公約としたようです。
ご存知のように後期高齢者医療制度は小泉政権の時に法案可決されたものです。

以下は読売新聞の「解説」からです。
唐沢氏の対抗馬として立候補した下間(しもつま)秀晃(ひであき)氏(47)は、立候補の理由として「現場の医師はいろんな意味で疲弊しており、安心して医療に従事できていない。政府との協調路線を取るだけでは問題は解決しない。弱体化した医師会を戦える組織として立て直したい」と語り、政府・与党との関係を巡る路線論争を挑んだ。
2月の大阪府医師会長選でも、政府・自民党との距離の取り方が最大の争点となり、日医執行部と歩調を合わせる現会長と、執行部を批判し、前日医会長の植松氏が支援する元副会長の一騎打ちとなった。結果は、135票対134票のわずか1票差で現会長が辛勝するなど、火種はくすぶっている。
次期衆院選で票の見返りを期待する自民党厚労族からは「今の日医は自民党の言うことに素直に従う。唐沢氏を会長選で落選させるわけにはいかない」という声も聞こえるが、唐沢執行部が自民党との蜜月(みつげつ)関係を強調することが、投票にどう反映されるのかは不透明だ。

08年度予算案では、診療報酬のプラス改定の財源を捻出(ねんしゅつ)するため、大企業のサラリーマンが加入する健康保険組合などが、1000億円の負担増となる法案が提出された。
一方で、医師不足や地域医療の立て直しの効果的な策は見えず、今年1月以降全国で77の医療機関が分娩(ぶんべん)の中止・制限を予定している。
日本の医療体制が崩壊の危機を迎えようとしている。

政府との距離争点に 協調路線の現職に新人挑む
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20080327-OYT8T00167.htm?from=goo

<コメント>
医師会員は大阪府医師会長選でみるように割れています。
開業医は日々の診療に汲々です。
しかし死に体の自民党にべったりで本当にいいのかという素朴な疑問が湧きます。


他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)
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by esnoopy | 2008-04-25 00:01 | 循環器科

糖尿病治療の相違

「日本内科学会総会2008. 4. 17」の記事で勉強しました。

専門性や経験年数で糖尿病治療はこんなに違う
2型糖尿病の治療では、患者特性とは独立して、医師によって処方内容に違いがあるといわれている。薬物治療を受けている2型糖尿病患者と医師を対象に行った調査の結果、糖尿病の非専門医で経験年数が長いほど、1患者当たりのスルホニル尿素薬(SU薬)の投与量が多く、インスリン治療の導入割合が低いことが分かった。川崎市立川崎病院糖尿病内分泌内科の津村和大氏が、第105回日本内科学会総会で発表した。

調査対象は、同院で2007年4月~7月の間に経口血糖降下薬またはインスリン製剤を処方された全糖尿病患者2597人(年齢64.2±13.1歳、BMIは24.7±4.6、調査時のHbA1c値平均6.8±1.2)と、糖尿病患者を管理している医師32人(糖尿病外来を担当する専門医3人、非専門医29人)。

対象患者のうち、SU薬を処方されている患者の割合は54.3%。α-GI薬は43.5%、メトホルミンは29.9%、インスリンは27.7%、チアゾリジン薬は12.4%、グリニド薬は6.4%だった。

各種経口血糖降下薬とインスリンの投与状況(投与の有無、投与量)に関して、患者の特性(年齢、性別、BMI、合併症、HbA1c値、栄養指導受講歴の有無、腎機能障害の程度など)と、処方する医師の特性(経験年数、専門分野など)の両面から解析し、分析した。

ステップワイズ線形重回帰分析(有意確率5%)により、有意な関係があったものについて考察した。

その結果、患者特性とは独立して、医師の専門が糖尿病以外で、経験年数が長い方が、患者1人当たりのSU薬の投与量が多く、インスリン治療を導入している割合が低かった。

また、メトホルミンの処方状況(投与割合と投与量)について、比較的使用が促進されると思われるBMI25以上を対象に検討したところ、特に用量において、医師が糖尿病の専門性を持つことと経験年数が浅いことが関連していた。「肥満患者に高用量のメトホルミンを積極的に処方するのは、若い医師か糖尿病の専門性を有する医師だった」(津村氏)。

チアゾリジン薬については、糖尿病の専門性を持つ医師で使用頻度が高かったものの、用量には有意な差が見られなかった。

津村氏は、「現在、DPCデータによる診療プロセスのベンチマーキングが行われているが、一見同一疾患でも個々の患者特性を勘案するため、単純な治療内容の比較検討が難しいという問題点がある」と指摘する。そういった観点から「今回の調査では、糖尿病患者の特性とは独立して、医師個人の専門領域や経験年数によって投薬傾向が見られた。あくまで治療プロセスを検討したもので、治療内容の良し悪しなどのアウトカムの評価はこれからの課題だが、今後、糖尿病治療の均てん化のために有用なデータだと考える」(津村氏)と語っている。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/200804/506160.html
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東山魁夷 「行く春」
http://page15.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/t70648408


<番外編>
名ばかり管理職と是正勧告 滋賀県立病院に労基署 「医師不足が要因」
出典 共同通信社2008.4.23

滋賀県守山市の県立成人病センター(河野幸裕(こうの・ゆきひろ)病院長)で、管理職の医師が、権限がないのに残業代が支払われない「名ばかり管理職」の状態に置かれているとして、大津労働基準監督署が労働基準法に基づく是正勧告をしていたことが23日、分かった。

名ばかり管理職をめぐっては、未払い残業代の支払いを求める訴訟や労働審判が相次いでいる。公立病院にも同様の問題があることが明らかになったが、センターを運営する県病院事業庁関係者は「医師不足が要因となっている」と説明している。

大津労基署は内部告発を受け、今月11日、センターに立ち入り調査。同事業庁から事情を聴き、勤務日誌など関係書類を調べた。

この結果、部長以上の管理職の医師で、勤務終了後5?6時間の残業が常態化。月数回の夜間当直では、夜間診療や急患対応に追われ、当直が明けても深夜まで連続勤務する場合も多かったが残業代は支払われていなかった。

さらに一般の医師も同様の勤務状態にあったが、1日8時間の法定労働時間を超える残業をさせる場合、労使協定を結んで労基署に届け出なければならないとの労働基準法の規定も守られていなかった。

同事業庁の谷口日出夫(たにぐち・ひでお)庁長は「勧告を受けたのは誠に遺憾。今後、専門家を交えて協議し早急に対応したい」と話している。

http://www.m3.com/news/news.jsp?pageFrom=m3.com&sourceType=GENERAL&articleId=71765&articleLang=ja
<コメント>
この新聞記事の内容が一事が万事。
医師に時間外手当をきちんとつけさせれば多くの病院は潰れます。
今の医療は医師の、なかばボランティア(時間外無給労働)によって成り立っているのです。
そこんとこ厚労省の方お役人、わかっていますか?

包括医療ならぬ包括給与?
こんなこと労働基準局が認めるわけがありません。
内部告発で告発された病院は一発退場。
すべての病院が日本からなくなります。
まともに医師に給料が払える診療報酬額ではないからです。

日本の医療はこんなきわどい状態なのです。
医療崩壊の音が聞こえます。
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by esnoopy | 2008-04-24 00:05 | 糖尿病

アルツハイマー病 (世界の権威に聞く)

Medical Tribune誌の"世界の権威に聞く"という特集号で、Michael W. Weiner先生へのインタビューで勉強しました。

Michael W. Weiner
カリフォルニア大学サンフランシスコ校放射線科学および精神科,神経内科教授,サンフランシスコ在郷軍人病院神経変性疾患画像センター長
ジョンズホプキンス大学(BA)卒業。スタンフォード大学にてNMRの研究に取り組み,1980年に生存動物体内臓器の代謝の観察に成功。その後MRIを心臓や脳に応用。現在は軽度認知異常(MCI),認知症,アルツハイマー病など神経変性疾患における画像による病態解明や診断の第一人者。


人口の高齢化に伴いアルツハイマー病(AD)の患者数は世界的に増加している。
病態の解明は進みつつあるが,根本的な治療法確立への道のりはまだ遠い。
新薬開発のトップを行く米国では,画像診断を中心とする大規模臨床研究が2004年に始まった。
その責任者であるカリフォルニア大学サンフランシスコ校のMichael W. Weiner教授にAD克服のポイントについて聞いた。


認知障害がないAD動物モデル
ADの病態はどこまで解明されていますか。
ADは,脳の神経細胞外にβアミロイド蛋白(Aβ)が蓄積した老人斑と,神経細胞内にタウ蛋白が糸くず状に蓄積した神経原線維変化が関与して,多くの神経細胞の死を引き起こし,認知機能障害を示す疾患です。
壮年期発症や高齢発症に関与する遺伝子が発見されていますが,なぜ一部の人だけに発症するかはまだわかっていません。
危険因子としては,幼小児期の脳の強打や脳震とう,低学歴,加齢,低精神的・社会的活動性のほか,運動不足,糖尿病,高血圧,高コレステロール血症などが挙げられます。
脳卒中を起こした人もADリスクが高いのですが,これらの危険因子がいかにAD発症に関与するのか,そのメカニズムは明らかではありません。 
多くの研究者は,ADの主要原因はAβで,その産生抑制や,蓄積したアミロイドの分解によって疾患の改善が可能と考えており,それらを標的とした新薬の開発が行われています。

ADの動物モデルはヒトのAD病態解明や治療法開発にどの程度役立っていますか。
ADマウスの存在によって病態の解明は進み,神経細胞のなかのアミロイド前駆体蛋白(APP)がβセクレターゼとγセクレターゼという蛋白分解酵素によって切断されAβが産生されるメカニズムがわかりました。
しかし,マウスではAβの蓄積は生じますが,神経細胞の変性は起こらず,Aβの蓄積がどのように神経細胞死を起こすか,そのメカニズムはわかっていません。

ヒトのADはAβの蓄積開始から20年近い年月を経て認知障害が発現し重症化しますが,マウスの寿命は短いため同様の病態は得られず,またマウスでの認知障害の計測はきわめて困難です。

同様に治療薬の開発でも,Aβの産生抑制や分解についてはマウスで実験可能ですが,その認知障害に対する影響を知ることはできません。

つまり,動物モデルは有用ですが十分とは言えません。

AD治療薬の開発はどの程度進んでいますか。
現在開発が進められているAD治療薬は大きく 3分類されます。
第 1 はAβの産生抑制を狙ったもので,βセクレターゼ阻害薬とγセクレターゼ阻害薬です。
第 2 は免疫療法,つまりAβプラークを特異抗体を用いて分解するもので,数種類がフェーズ I,II の段階です。
第 3 はAβ以外を標的とするものです。
いずれも副作用や効果判定の難しさもあり,それらの薬剤が臨床的に有用かが判明するには 5 年くらいかかるのではないでしょうか。

イメージング(画像)とバイオマーカーは診断と治療法の確立に不可欠
イメージングは新薬開発に役立ちますか。
脳は堅強な骨に包まれているため内部は容易に見られず,またADの臨床症状は患者のその日の精神や身体状況によって大きなばらつきが見られます。
他疾患に比べ病状の進行が長期にわたり,病状の進行状況も個人差が大きいなどの理由から,薬剤の有効性を判定するのは非常に難しいとされています。
このため,
ADの進行状況や薬剤の有効性を客観的に評価できる画像やバイオマーカーの標準を確立することは,とても意味があることなのです。
また画像は早期診断や進行度評価の標準化にも役立ち,さらによりよい臨床試験の開発にもつながります。

こうしたことから,われわれは画像やバイオマーカーによる客観的評価がADの診断と治療,また新薬開発に不可欠と考え,大規模な観察研究
ADNI(Alzheimer's disease Neuroimaging Initiative) を計画・実行しています。

ADNIとは具体的にどのようなものですか。
ADNIは米国立衛生研究所(NIH)から4,000万ドルとアルツハイマー協会や製薬企業からの協賛金併せて総額6,700万ドル(約74億円)の予算で,2004年10月にスタートしました。
米国内の50施設で,55~90歳の軽度AD患者200人,軽度認知障害(MCI)患者400人,正常者200人を対象とし,半年ごとに記憶テストや面接などによる臨床症状の評価,MRI,FDG-PETなどの画像検査,血液・尿検査,症例によっては脳脊髄液検査,PIB-PET(Aβの画像検査;図)を 2 ~3 年間にわたって行うものです。
2007年 9 月には全被験者登録が終了し,2009?10年に全試験が完了の予定です。

被験者登録の終了時点で,既に興味深い傾向が見られています。平均年齢は各群とも約75歳ですが,男性の割合はMCI 群65%,AD群53%,対照群52%で,MCI群での男性の比率が高いのです。
また高校卒業後の教育年数は対照群の 4 年に対し,AD群では 2 年で,やはりADの危険因子となっていたのです。
 
これらの研究の終了後にはMCIからADへの変換率,MRIによる各群の脳全体,海馬,大脳皮質などの量的変化率,各種バイオマーカーの変化率,PETによるグルコース代謝やAβ蓄積の各部位における変化などを知ることができるでしょう。
これらのデータに基づき臨床試験方法の改善や臨床試験結果の信頼性の向上が期待されます。
 
ADNIは,日本,オーストラリア,欧州でも同様の試験が開始されています。
これらすべての研究により,今後ますます早期診断や新治療法の開発などが飛躍的に進むことが期待されます。


Comment
画像や体液で治療法開発へ
東京大学大学院神経病理学分野教授 岩坪 威
高齢化社会の本格化に伴い,ADの予防・治療の必要性が世界的に高まる一方で,ADの病態解明が飛躍的に進み,アミロイドワクチン療法,セクレターゼ阻害薬などの根本的治療法が開発され,欧米では既に臨床試験も開始され始めています。
根本治療薬の有効性を確実に評価し,速やかに実用化するには,
(1)従来の症候改善薬の治験で用いられてきた認知機能検査や行動観察結果に基づいた方法は,結果に大きなばらつきを生じ,効果判定が不確実
(2)初期の患者,すなわち軽度認知障害(MCI)や軽症ADは進行が緩徐であるため,従来方式の治験は巨大な規模と長い観察期間,莫大な治験費用が必要
(3)根本治療薬の効果判定には,疾患(病態)の本質過程に直結したサロゲートマーカーが不可欠
―などの問題の解決が必須です。
 
この目的で,ADに進行する率の高い健忘型軽度認知障害(amnestic MCI),軽症AD,健常者総計800人について,MRIによる精密な脳容積測定,PETによる脳糖代謝画像,βアミロイドイメージングなどの画像マーカーと,脳脊髄液,血液などの体液生化学マーカーを経時的に検索し,そこに臨床・神経心理学評価を組み合わせてADの発症・進行モニター法を策定しようとする大規模縦断臨床観察研究としてADNIが開始されました。
ADNIはWeiner教授の先駆的なアイデアが,故・Leon Thal教授により築き上げられた米国AD臨床試験の全国ネットワーク組織ADCSとClifford Jack教授らメイヨー・クリニックの神経放射線グループ,Arthur Toga教授率いるUCLAのLAβoratory of Neuroimagingデータベースなどの強力な支援により結実したものです。
わが国でもADNIプロトコルに沿った全国臨床研究J-ADNIが立ち上がり,総計600人の被験者募集が2008年初頭から開始されたところで,欧州,オーストラリアでも同様の動きがあります。世界的に見ても,今後のAD臨床研究と根治薬の治験はADNIの成果を基盤に展開することは確実であり,ADの制圧に向けて,確実な道筋が開かれつつあるものと言えます。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M41141161&year=2008
出典 Medical Tribune 2008.4.3
版権 メディカル・トリビューン社


<参考サイト>
アリセプト(塩酸ドネペジル)
http://3.csx.jp/kenta_k/drugs/020ariseputo.html

アリセプト(塩酸ドネペジル)
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se11/se1190012.html
認知症の進行度が中程度までなら20~30%ぐらいの有効率があるとされ、症状を数カ月~1年ほど前の状態まで回復できます。ただし、対症療法薬ですので、病気そのものの進行を遅らせることはできません。薬を飲むのをやめれば飲まなかったときと同じレベルまで急速に悪化することがあります。(中止により急速に悪化というかなり恫喝的な表現が用いられています。)

河野和彦先生の、医療講演
http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/Kouno0228.shtml
(アリセプト3mgは消化器症状などの副作用チェックのための用量であり、効果のない量ということになっています。以前から薬価がついていることに疑問を持っていました。一体アリセプト3mgは薬剤なのか薬剤でないのかどちらなんでしょうか。)

痴ほう症新薬、過剰期待は禁物
http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/AriceptAsahi991124.html
しかしその効果の発現は2~3割程度で、進行を遅らせる効果は1年弱程度といわれています。すなわち、症状を1年程前の状態に改善し進行を遅らせるのですが、脳の萎縮そのものを抑制する薬ではないので、やがて重症化するのです。また、効果の発現は2~3割程度ですから、効果が発現するかどうかは何とも言えません。
(個人的にはアリセプトとの著効例は残念ながら経験していません。
中止にて、アリセプトによると思われる興奮などが改善する例は多く経験しています。先生方はいかがでしょうか。また進行を遅らせるといわれてもなかなか実感できるものでもありません。)

あきらめないで痴呆治療
http://www.junposha.co.jp/guide/3fuk/etc/aki.htm
(同じく河野先生の著作の紹介です)
私の経験では半年飲めば約6割の方が一時的にせよ症状が改善するのです。
学会でも多施設から報告があり、改善率はやはり六割を越します。
さらに、外見上改善していない患者も脳内では進行抑制をしているらしく、アリセプトを飲んだことのない患者とは差がつくとのことです。

(ちょっと私のアリセプトに対する印象とは異なるようです)

トラミプロセート
http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/Toramipuroseto.shtml
(70%ほどの患者で進行が抑えられたという触れ込みですが実際は?)

他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)
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by esnoopy | 2008-04-23 00:05 | 認知症

麻疹 その2(2/4)

麻疹シリーズ
麻疹 その1(1/4)http://wellfrog.exblog.jp/8666694/
の続きです。

麻疹をカタル期に拾い上げるには
カタル期の患者は最も感染力が強いにもかかわらず、症状は非特異的で診断が難しい。

実際、上気道炎や気管支炎などの診断で抗菌薬を処方され、その後出現した発疹が薬疹と誤診された例も多い。病院でスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson Syndrome:SJS)と診断され、救命救急センターに搬送された麻疹患者の例もある。


まずは患者接触歴の確認から 
カタル期に麻疹を拾い上げるには、常に麻疹の可能性を頭の片隅に置いておくことが大切である。
そして、症状が出現する10〜12日前に、麻疹患者との接触があったかどうかを必ず尋ねてほしい。

明らかに麻疹と診断された人との接触歴がなくても、麻疹の流行時期に卒業式や入学式、コンサート会場など、大勢の人が集まる場所へ行ったというエピソードがあれば、麻疹の疑いを強められる。
2008年に報告された症例では、成人式の会場で感染したと見られるケースがあった。

麻疹患者との接触歴を聞く際に、麻疹の罹患歴や予防接種歴も忘れずに確認したい。もし罹患歴、接種歴ともになければ、麻疹をより強く意識する必要があるだろう。

また、予防接種歴があっても、まれに免疫を獲得できなかったり(primary vaccine failure)、一度獲得した免疫が年余を経て低下する(secondary vaccine failure)ことがあるため、必ずしも麻疹を否定できないことも念頭に置いておきたい。


コプリック斑は期間限定の大ヒント 
麻疹特有のコプリック斑は診断的価値が高いので、カタル期の症状を診たら必ず口腔内をチェックしてほしい。

見慣れた咽頭周辺ではなく、奥歯の対面の粘膜に注目し、白い小斑点を発見したら、翌日か翌々日には発疹が出現してくる可能性が高い。
コプリック斑は発疹出現後2日ほどで消えてしまう「期間限定の大ヒント」なので、ぜひとも見逃さないようにしてほしい。
このほか、血液検査では
(1)高熱の割に白血球数が少なく(2000~3000/μL前後)、CRPもそれほど高値にならない、
(2)成人では肝機能異常を示すことが多い、
(3)LDHが高い——という特徴にも留意したい。
2001年の流行時には、肝機能の低下から急性肝炎を疑われた麻疹患者が、病院の消化器科に次々と入院してきた、というケースもある。

なお、小児と成人で臨床症状に差はないが、症状をうまく訴えられず、ぐったりとしてしまう小児に対し、成人は「のどが痛い」「つらくて眠れない」「死ぬかと思った」といった重症感のある訴えが多い印象がある。


発疹出現から4日以内は、IgMが陰性でも再検査を
確定診断のためのウイルス学的検査では、
(1) 急性感染を示す麻疹特異的IgM抗体が陽性(EIA法)
(2) 急性期と回復期のペア血清で麻疹特異的IgG抗体価の陽転(EIA法)
(3) 同じくペア血清でIgG抗体価の有意上昇(CF法、HI法、PA法、NT法で4倍以上)
(4) 咽頭ぬぐい液または血液からの麻疹ウイルス分離または検出(麻疹ウイルスゲノムはRT-PCR法やリアルタイムPCR法などで検出する)
のいずれかが確認できれば麻疹と検査診断できる。

ここで注意すべきは、麻疹特異的IgM抗体は、発疹出現後5日以降の採血であれば確実に陽性となるが、発疹出現から4日以内の場合は偽陰性となる場合があることだ。
発疹出現から4日以内で、症状や麻疹患者との接触歴から麻疹が強く疑われるにもかかわらず、IgMが陰性となった場合は、自分の医師としての直感を信じて、5日目以降に再検査を行ってほしい。

また、迅速診断が必要な場合は、麻疹ウイルスゲノムの検出を最寄りの保健所に相談すれば、地方衛生研究所と連携して対応してもらえることが多い。
国立感染症研究所でも対応可能である。


すべての医師は麻疹を診たら届け出を!  
2007年の流行を受けて、2008年1月1日から、麻疹は従来の定点サーベイランスの対象疾患から全数把握疾患へと変更された。
すべての医師は、麻疹あるいは修飾麻疹と診断した場合、24時間以内に最寄りの保健所に届け出ることが義務付けられている。
臨床診断のみでも届け出の対象となるが、可能な限り検査診断を実施し、その結果を追加報告していただきたい。

麻疹患者発生の情報を医療関係者や行政、学校関係者などが共有することが、麻疹流行を封じ込める上での大きな武器となる。
麻疹に関する各種情報や保健所への届け出様式は、感染症情報センターのホームページに掲載されている。

http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/series/taya/200803/505833_2.html

<自遊時間>
米国で著名ブロガー死亡相次ぐ 日本でも「ドクターストップ」発生
米国で著名ブロガーの死亡が相次ぎ、「デジタル時代の労働搾取」と話題になっている。
ブログがメディアに匹敵する存在に成長、24時間労働を強いられているケースも多い。日本国内でも「ドクターストップ」が出た著名ブロガーもいる。今やブログ運営はハードワークなのだ。

中略

「ドクターストップ」がかかった著名ブロガーが国内にもいた。
自身のブログのページビューが年間950万ほどにまで成長した経済学者の池田信夫さんは、「プレッシャーはありますよ。月間100万アクセスを超えた辺りから、寝られない日が続き、医者にブログをやめろと言われて…。もう、どうしようもないコメントやスパムとかノイズが凄く飛んでくるんですよ。私はこういったものについて気にしない方なんですが、さすがにストレスになってきています」と明かす。
池田さんは、ストレスを抱えながらも、雑誌に掲載されるよりも社会的に影響力のある情報をいち早く掲載できるメリットがあるとして、ブログの運営は続けていく意向だ。ただ、米国のブロガーがストレスを抱える現象について、次のようにも指摘する。

「日本と米国ではカルチャーが違います。米国ではブログに対して『言論』としての意識が高い。
日本ではカットペーストしてページランクを上げようとする変てこなブログばっかりですが、米国では、例えばSNSの『Facebook』の様に実名で写真まで載せています。
匿名でスパムブログをやってもストレスにならないでしょうが、米国では緊張感が高いんです」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080410-00000001-jct-sci

(危ない危ない。ブログもほどほどにしないと・・・)

新型インフル発生時、ワクチン検査不要・厚労省、素早い接種可能 
厚生労働省は新型インフルエンザの発生時に政府が備蓄しているワクチンを国民に素早く接種できるようにするため、薬事法で定める品質などの出荷前検査である「国家検定」を例外的に不要にすることを決めた。近く薬事法の施行規則などを改正する。
 政府は新型インフルエンザの発生に備え、毒性の強い鳥インフルエンザのウイルスをもとに製造した「プレパンデミック・ワクチン」を2000万人分備蓄し、追加も検討している。新型ウイルスの発生後には、より効果の高い「パンデミック・ワクチン」の製造にも着手する方針だ。
http://health.nikkei.co.jp/news/top/

<コメント>
インフルエンザワクチンの効果も不確かな現状で、新型インフルエンザワクチンが有効と考えるのは幻想ではないでしょうか。
例年のインフルエンザワクチンの有効性について、シーズン終了後の発表ははたしてされているのでしょうか。
少なくとも私は検索方法や知る手だてを持ち合わせていません。

この新型インフルエンザワクチンとやらはどの医療機関で誰が接種するのでしょうか。
『「国家検定」を例外的に不要にする』といわれても・・・。

他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)


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by esnoopy | 2008-04-22 00:27 | 感染症

脳梗塞 (世界の権威に聞く)

Medical Tribune誌の"世界の権威に聞く"という特集号で、Thomas G. Brottメイヨー・クリニック医科大学神経科教授 へのインタビューで勉強しました。

Thomas G. Brott
メイヨー・クリニック医科大学神経科教授
シンシナティ大学を経て1998年から現職。メイヨー・クリニックジャクソンビル研究ディレクター兼任。米国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)作成を主導し,NINDS rt-PA Stroke Studyではシンシナティ大学の主任研究者を務める。米国脳卒中協会(ASA)のガイドライン執筆委員などを歴任。


脳梗塞急性期に対する遺伝子組み換え組織型プラスミノーゲンアクチベータ(rt-PA;一般名アルテプラーゼ)静注療法は,それまで積極的な治療法のなかった脳梗塞治療を大きく変えた。
その有用性を証明したのは,米国立神経疾患脳卒中研究所(NINDS)が主導したランダム化臨床試験(N Engl J Med 1995; 333: 1581-1587)である。
NINDS試験に参加したThomas G. Brott教授に,同試験およびその後の脳卒中医療について聞いた。

脳梗塞急性期に対するrt-PA静注療法の有用性を証明
脳梗塞急性期に対するrt-PA静注療法は,現在,標準治療として確立されています。この治療法の有用性を証明したNINDS試験についてお聞かせください。
当時,脳梗塞による脳神経障害を軽減する治療はありませんでしたが,梗塞が完成する前に閉塞した脳血管を血栓溶解薬で再開通させることができれば,障害を軽減できるだろうということは多くの人が考えていました。
しかし,血栓溶解療法は出血リスクを伴うため,そのリスクとベネフィットのバランスがとても重要です。
この問題の克服を可能にしたのはCTとrt-PAです。
CTによる画像検査は脳出血の診断を可能にし,それにより脳出血例への血栓溶解療法は避けられるようになりました。
rt-PAはいわゆる第二世代の血栓溶解薬で,ウロキナーゼやストレプトキナーゼのような第一世代薬に比べて,血栓溶解作用が強く全身への影響が少ないという特徴があります。

脳梗塞急性期に対するrt-PA静注療法の安全性は, 2 つの用量設定試験で検討しました。
それらの試験では,出血リスクを最小限に抑えて最大限の効果を得るには,脳梗塞発症後 3 時間以内のごく早期に治療を開始することが重要であることが明らかになりました。
また,rt-PAの用量については,体重 1 kg当たり0.95mg未満のアルテプラーゼ静注が比較的安全で,かなりの患者で早期の神経学的改善が得られることがわかりました。


その結果を踏まえてNINDS試験を実施されたわけですね。
そうです。
NINDS試験では,発症後 3 時間以内の脳梗塞急性期患者624例に,アルテプラーゼ0.9mg/kgまたはプラセボを投与して比較しました。
対象は,発症時刻が特定でき,NIHSSの評価が可能で,CTで頭蓋内出血の所見が認められない患者としました。
その結果,発症 3 か月後の転帰良好例(modified Rankin Scale 0 ~1 )は,アルテプラーゼ群39%,プラセボ群26%で,アルテプラーゼ群で有意に多く認められました。
一方,懸念された安全性については,36時間以内の症候性頭蓋内出血がアルテプラーゼ群6.4%,プラセボ群0.6%で,アルテプラーゼ群のほうが有意に多かったのですが,全体としてはベネフィットがリスクを上回りました。

この結果を踏まえて,翌1996年に米食品医薬品局(FDA)は脳梗塞急性期に対するrt-PA静注療法を承認しました。


rt-PA静注療法導入で脳卒中医療は劇的に変化
脳梗塞急性期に対するrt-PA静注療法が導入されて,米国の脳卒中医療はどう変わりましたか。
もちろん,rt-PA静注療法ですべての脳梗塞急性期患者を救えるわけではないのですが,少なくとも一部の患者は確実に救うことができるようになりました。
それまでは全身管理に終始していましたから,そのインパクトは非常に大きく,脳卒中医療は劇的に変化しました。
 
rt-PA静注療法は時間の制約を受ける治療です。
ですから,脳卒中が疑われる患者には一刻も早く,この治療が可能な施設に来てもらわなければなりません。
そこで,米国心臓協会(AHA)を中心にブレインアタック連合が結成され,「脳卒中を起こしたら一刻も早く救急車を呼ぼう」と,ブレインアタックキャンペーンが展開されました。
2000年には一次脳卒中センター(PSC)のガイドラインも発表されました。
 
ただ,rt-PA静注療法の実施率を高めるのは容易ではありません。
2004年にはヘルスケア評価機構であるJoint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations(JCAHO)がPSCの認定を開始しました。
もちろん,認定の条件にはrt-PA静注療法が実施可能であることも含まれます。一方,2005年には米国脳卒中協会(ASA)が施設の質を向上させるためのプログラムを開始しました。


米国では,脳卒中が疑われた患者をPSCに搬送することを救急隊員に義務付ける法律がつくられている州もあるようですね。

フロリダ州は,脳卒中が疑われる患者を,JCAHO認定のPSCへ搬送するように求めた最初の州です。
地域の脳卒中救急医療体制を整備するため,AHAやフロリダ病院協会などが共同でFlorida Stroke Act(FSA)を制定し,これが2004年に法制化され,翌年施行されました。

FSAは脳梗塞患者でのrt-PA静注療法実施率を増加させるのに有効でした。
2 つのPSCで,FSA施行前後の各 6 か月間における実施率を調査したところ,FSA施行前8.4%,施行後10.5%と,有意に増加しました。


やはり最も重要なことはより早期の治療開始
rt-PA静注療法以外の新しい治療法についてはいかがですか。
米国でrt-PA静注療法が認可されてから約12年が経過しましたが,その間に脳卒中への適応が認可された薬剤はありません。
唯一,認可されたのは血栓除去用デバイスMerci clot retrieverで,2004年のことです。
このデバイスの先端はコルクの栓抜きのようにらせん状になっており,その部分で血栓を捕捉して機械的に除去します。
このデバイスについて,FDAは患者の転帰を改善するエビデンスがあるとは明言していませんが,脳梗塞急性期患者の血栓除去に有用であるとしました。


rt-PA静注療法のtherapeutic window(治療時間枠)を広げられる可能性はありますか。
その可能性がある治療法として,脳組織における酸素・糖代謝率を抑える低体温療法,脳保護薬の投与などが候補に上がっています。
例えば,脳保護薬については,脳梗塞発症 6 ~24時間後からミノサイクリンを 5 日間経口投与すると,90日後の転帰が改善することが確認されています。 
とはいえ,脳卒中治療で最も重要なことはやはり,発症後できるだけ早期に治療を開始することです。
その重要性はより強く認識されるようになっています。
これはrt-PA静注療法に限らず,どのような治療法にも言えることです。
治療開始までの時間が短いほど,より安全に治療できますし,より高い有効性が期待できます。
PSCの認定にせよFSAの制定にせよ,rt-PA静注療法の導入後に私たちが取り組んできたことはすべて,より早期の治療開始につながっていると言っても過言ではありません。

世界の権威に聞く 脳梗塞
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?


<参考サイト>
ミノサイクリンが急性脳梗塞患者の予後を改善
http://wellfrog.exblog.jp/7216931/

他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)
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by esnoopy | 2008-04-21 00:14 | 脳血管障害

COPD (世界の権威に聞く)

Medical Tribune誌の"世界の権威に聞く"という特集号で、Bartolome R. Celli タフツ大学内科教授 へのインタビューで勉強しました。

Bartolome R. Celli タフツ大学内科教授
カリタス聖エリザベス医療センター肺・救命救急診療・睡眠医療科部長,COPD患者の診断および治療に関する基準を確立した米国胸部学会および欧州呼吸器学会の委員会副議長,The Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Desease(GOLD)執行委員会の元メンバー。


COPDは,気道や肺の炎症によりもたらされる慢性の気流閉塞性疾患であるが最近の研究からは全身性疾患との認識が広まっており,COPDがもたらす合併症や生命予後への影響について注目されている。
タフツ大学内科のBartolome R. Celli教授は,多次元的評価法による予測死亡率の有用性など,患者の個別性に応じた全身性症状の改善に着目して研究している。


COPD患者の予後に明るい兆し,BODE指数が死亡リスクの予測に有用

米国ではCOPDはどのような現状ですか。
米国では現在,COPDがおもな死因の第 4 位で,年間13万人以上が亡くなっています。
18歳以上でCOPDと診断されているのは1,100万人以上です。
最近のCOPDによる死亡数は,男性に比べて女性のほうが多くなっています。ただし,多くの症例がいまだ正確に診断されずにいます。
しかしその一方で,現時点では喫煙率が低下していることや,多数の新しい診断・治療法が実用化されていることから,COPDリスクのある人の予防や患者の予後について明るい希望を持ってよいとする理由が十分にあるということを,最初にお伝えしたいと思います。

COPDの生命予後や死亡リスクを決定する因子について最近の知見をお聞かせください。
まず,COPDを新しいパラダイムを通して見る必要があります。
つまりCOPDを単なる呼吸器疾患ではなく,評価可能な全身への影響(合併症)を伴う重要な疾患でもあると考えられます。

また,このパラダイムによると,COPDは予防や治療が可能な疾患であると考えるのです。

したがって,COPD患者の全死因や呼吸器系の原因による死亡リスクを予測するBODE指数は重要な意味を持ってくるのです。BODEは肥満指数(BMI;B),気流閉塞度(the degree of airflow obstruction;O),呼吸困難(dyspnea;D),6 分間の歩行テストで測定する運動能力(exercise capa-city;E)を意味します。
この 4 つの変数を使用して,スコアが高いほど死亡リスクが高くなる多次元的10点満点方式の評価法を作成しました。
われわれは,COPD患者の全死因や呼吸器系の原因による死亡リスクを予測するという点で,
BODE指数が 1 秒量(FEV1.0)よりも優れていることを明らかにしました。

これ以外にも重要で補完的なアプローチが,研究や新しい治療法の開発に重要な道を開いています。

最大吸気量/全肺気量比(inspiratory-to-total lung capacity ratioIC/TLCは,COPD患者の全死因死亡率や呼吸器系の原因による死亡率に関して有効で独立した予測因子です。
携帯型酸素飽和度測定器で24時間測定すると,COPD患者の日常生活動作と夜間のいずれにも影響を及ぼす,頻発する潜在的に重要な酸素飽和度の低下を確認できます。
蛋白質マイクロアレイプラットホーム(PMP)技術により,重要な臨床予後予測因子に関係する血清中の選択マーカーが確認されています。

心不全や心筋梗塞,不整脈,肺塞栓症はいずれもCOPD増悪に似た症状を呈するため,COPDの増悪と思われる症状を慎重に診断することがきわめて重要です。増悪の程度に伴い健康状態の悪化や肺機能の低下,死亡が生じるため,増悪の予防と適切な治療が非常に重要です。遷延性低酸素血症や不均一に分布する肺気腫による過膨張,末梢性筋機能障害など,特定の臨床表現型の検出における最近の進歩により,それぞれの患者に最適な治療を提供できるようになっています。


肺の過膨張が治療で重要な標的
最近の大規模試験によってどのようなことが明らかになったのでしょうか。
COPD患者6,112例を対象にしたTORCH試験では,サルメテロール/フルチカゾン配合剤群の全死因死亡率が12.6%,プラセボ群では15.2%であることが明らかになりました。

事前に決めた統計学的有意水準には至りませんでしたが,サルメテロール/フルチカゾン配合剤群では,死亡リスクがプラセボ群に比べて2.6%低下したほか,QOLの改善,増悪の程度の軽減,肺機能低下速度の遅延という成績が得られました。
 
UPLIFT試験では,チオトロピウムの長期投与により肺機能低下速度や健康状態,増悪の頻度に対する有用性を示すかどうかを明らかにしようとしています。
今年には報告されるでしょう。

われわれは以前,短時間および長時間作用型の気管支拡張薬もともにCOPD患者の肺過膨張を軽減することを明らかにしました。
というのも,
肺の過膨張が治療上重要な標的になるからです。

GOLDは新たな病期分類,増悪の管理,包括的医療チーム確立を推奨
患者管理についてGOLDレポートからわかることは何でしょうか。
最新のGOLDレポートには,COPDの診断,管理,予防に関する新しい基準,重症度を明らかにする新たな病期分類のガイドライン,増悪の管理に関する推奨事項,連携治療に必要な包括的医療チーム確立に関する推奨事項が記載されています。
GOLDの2007年追補版も発表されました(詳細はhttp://www.goldcopd.com/で閲覧可能)。

COPDの増悪を抑えることが重要な治療目標ですから,増悪例の自宅管理では現在実施している気管支拡張薬療法の用量や回数を増やすことが必要です。
さらに,COPD増悪時ではコルチコステロイドの全身投与も推奨されています。
病院で管理する場合は,酸素療法,非侵襲的呼吸管理,抗菌薬投与も役割を果たします。


患者個々に合った包括的アプローチで延命可能
多次元的評価法による死亡率予測の有用性,また最少の費用で最善の転帰を得て最大の治療効果を上げる活用法について教えてください。
多次元的評価法により,医師が患者 1 人 1 人に必要な診療について焦点を絞りやすくなります。
予測死亡率に目を向けることによって,延命のために何をすべきかという問題にも容易に焦点を定めることができます。
COPDは全身症状を伴う疾患であるため,患者それぞれの特性に合わせて介入することによりQOL改善,延命,死亡率低下が期待できると考えています。

呼吸リハビリテーションにより,転帰不良に関係する運動能力,呼吸困難などの変数とともに,多次元的BODE指数も改善します。
将来,全身性炎症の改善または正常化を目指した介入が実施されるでしょう。
われわれは,気流制限の程度に直接的には関係しないCOPDに伴う全身性疾患に着目することにより,同症の罹患率や死亡率の低下が可能かどうかを検討しています。

現在,COPDを生涯にわたって管理するには,包括的なアプローチが重要です。多くの患者では,COPDのさまざまな症状に対して複合的な治療を同時に展開することが必要なのです。

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竹内敏彦  「ヨットハーバー」 F10 
http://page3.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/c172042187

Comment
COPDは全身性疾患として  予防と治療が可能な時代に
順天堂大学呼吸器内科客員教授 福地 義之助 COPDについて世界的に最も広く引用されているGOLDの2006年改訂版に導入された,"COPDは予防と治療が可能な疾患である"という疾患概念をかねてから強調してきたのはCelli教授です。

COPD治療に対する,医師と患者の長年にわたる無力感や悲観論にとらわれることなく,今や積極的に治療を展開すべきだという確固たる信念が,Celli教授のインタビューからもよく伝わってきます。

有効な治療が可能になったのは,長時間作用型気管支拡張薬が普及してきたことや,呼吸リハビリテーションの早期導入が広まったことなどが貢献しています。

さらに,COPDの全身的影響としてGOLDに挙げられている動脈硬化症,骨粗鬆症,筋萎縮性変化などは,一般臨床においても高齢者診療では日常的に多く診療していますが,その適切な管理が一般臨床医にとっても重要な診療内容となることは必至でしょう。

このためには,COPDが全身性疾患であることを十分に理解し,Celli教授が提唱したBODE指数に即して,体重(BMIなど)の維持に直結する栄養管理,気流制限(obstructive disturbance),呼吸困難(dyspnea)の改善を図る気管支拡張薬の投与,運動能力(exercise capacity)を向上させる運動療法などを標的とした治療戦略を立てることが重要です。
 
TORCH,INSPIRE,UPLIFTなどの大規模臨床試験においてCOPDの予後の改善,増悪の防止,患者QOLの向上とともに肺機能の低下を改善することが示されれば,COPDをさらに早期から治療することの意義が確認できると期待されます。

わが国で発刊されている『呼吸リハビリテーションマニュアル』の「運動療法」(2003年)と「患者教育の考え方と実践」(2007年)に関するガイドラインは,COPD患者の診療を行ううえでおおいに役立つ情報を満載しているので,広く参照していただければ幸いです。

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M41141021&year=2008

出典 Medical Tribune 2008.4.3
版権 メディカル・トリビューン社

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by esnoopy | 2008-04-18 00:08 | 呼吸器科

上部消化管疾患 (世界の権威に聞く)

Medical Tribune誌の特集号で、ピロリ菌の発見者であるMarshall先生へのインタビューで勉強しました。

Barry Marshall先生の紹介
西オーストラリア大学微生物学教授,同大学Marshall感染症研究・研修センター所長
1951年,オーストラリア生まれ。
Helicobacter pyloriの発見により,元王立パース病院の病理学者Robin Warren博士とともに2005年度のノーベル生理学・医学賞を受賞。
自ら菌を飲んで,H. pyloriと胃潰瘍の因果関係を実証したエピソードが話題となった。大の親日家で,日本との共同研究にも力を入れている。


H. pyloriの発見とH. pylori 除菌治療の導入は消化器疾患の臨床に大きな改革をもたらした。
潰瘍予防・治療への貢献から胃がん予防の可能性までその期待は大きい。
2005年のノーベル生理学・医学賞受賞後,「世界中の人たちに医学研究の魅力を伝えていけるという受賞者の特権を楽しんでいる」と語る西オーストラリア大学のBarry Marshall教授に,除菌の現状と研究の今後について聞いた。


H.pylori発見により上部消化管疾患の概念や診療方針は大きく変貌しました。
H.pylori除菌治療に対する医師の認識の変化についてどう思われますか。
H.pylori除菌治療の受け入れは徐々に進んできました。
特にH.pylori感染率の高い国では受け入れに慎重な姿勢が取られてきたのですが,それはよいことだったと思います。
例えば,H.pylori陽性者の比率が高い国で全員に除菌治療を行うことになれば,医師の負担や医療費の増大などさまざまな問題が生じると想定されたからです。
少しずつH.pylori除菌療法が受け入れられて,世界的に浸透してきたのはたいへんよいことだと思います。


H.pylori陽性なら除菌すべき
すべての感染者を除菌すべきなのでしょうか。 H.pylori感染者の 9 割には潰瘍が見られず,日本では保険診療外となっていますが,このような感染者の除菌についてどう考えられますか。
私はH.pylori陽性であれば除菌すべきだと考えます。
オーストラリアでもつい最近まで症状のない患者への除菌治療は保険診療外とされていましたが,医師は除菌の重要性を認識していましたから,患者にも行政にも重要性を働きかけてきました。
その結果,今もH.pylori除菌が義務付けられているわけではありませんが,多くの患者が除菌治療を受けるようになっています。
10代以降であればH.pylori検査をして対処するのがよいと思います。


クラリスロマイシンへの耐性菌の出現などで,H.pyloriの除菌成功率は70%程度にまで低下しています。
除菌の効率を上げるにはどうしたらよいのでしょうか。

確かに,H.pylori除菌法として広く用いられてきたプロトンポンプ阻害薬(PPI)+アモキシシリン+クラリスロマイシンの 3 剤併用療法では,以前ほどの除菌効果が得られなくなっており,新しい除菌法の模索が続けられています。
しかし,
この 3 剤併用療法でもPPIや抗菌薬を増量したり,通常は 7 日間の除菌治療期間を10日間に延長するといったわずかな調整で,除菌率を80?90%まで回復させることが可能です。このように,最初の除菌法が失敗しても,わずかに異なる治療選択肢が 3 〜4 種類は存在します。
除菌治療後には呼気検査などで除菌効果を正しく把握し,失敗であれば次の除菌法を行うようにするのが肝心です。


除菌にはデメリットを超えるメリットあり
日本人はH.pylori感染率が高く,胃がんも多いのですが,胃がん予防のために除菌をしたほうがよいのでしょうか。
除菌はすべきだと思います。
H.pylori除菌の胃がん予防効果を証明するために臨床試験を行うことはできませんが,日本には大勢のH.pylori陽性者がいますから,例えば80歳以上の高齢者のみで除菌治療を徹底するところから始めて,半年〜1 年ごとに対象年齢を 5 歳ずつ下げていく方法でH.pylori除菌を普及させていけば,5 年後には日本の胃がん発症率は下がり始めるはずです。

結果が出るまでにある程度の時間は必要ですが,除菌療法の成果は必ず現れると思います。
胃がんが減少すれば内視鏡検査の施行数も減少するでしょうし,除菌療法の費用を考えても,結果的には医療費の削減につながるのではないでしょうか。


除菌によるメリットとデメリットについてはどのように考えられていますか。
除菌のデメリットがやや強調されすぎているように感じます。
確かに薬剤耐性の問題はあり,H.pyloriだけでなく他の細菌にもクラリスロマイシン耐性菌が増える危険性が指摘されていますし,抗菌薬による副作用も除菌のデメリットと言えます。
ただし,長年の除菌治療経験から,いったん除菌に成功した患者は,その後H.pylori陽性に転じることなく大きな健康メリットを受けられることは明らかです。
除菌にはデメリットを超えるメリットがあると考えます。

無毒化H.pyloriを利用した経口ワクチン
先生が取り組んでおられるH.pyloriを利用したワクチン開発の現状と実用化のめどについてお話しいただけますか。
私が進めているのは,H.pylori感染予防のためのワクチン開発ではなく,H.pyloriを種々のワクチンのドラッグデリバリーシステム(DDS)として利用するという新しい概念のワクチン研究です。
無毒化したH.pyloriに,例えばインフルエンザウイルスの遺伝子を導入して胃内に運ばせ,H.pyloriが胃内で数週間生息している間に,インフルエンザに対する免疫を獲得させるというものです。
この研究が完成すれば,いわゆるプロバイオティクスのような働きのH.pyloriができ,インフルエンザだけでなく種々のワクチンを経口的に接種できるようになります。

既にH.pyloriの無毒化とワクチン遺伝子の導入は可能であり,現在は動物実験で種々の遺伝子の検討を進めているところです。
今後はできるだけ早い時期にボランティアによるヒトへの検討に入りたいと考えています。
実用化までには10年以上かかるかもしれませんが,このワクチンが実現すれば,スーパーマーケットでインフルエンザの予防ワクチンを購入できる日がやってくるかもしれません。
また,黄熱病やマラリアなどさまざまなタイプのワクチンに応用できますから,使い捨て針や消毒,冷蔵の必要がなくなり,アフリカなどの貧しい国々でも広くワクチン接種が可能になるでしょう。素晴らしいブレークスルーになるはずです。


最近のH.pylori研究で注目されているものがありましたら教えてください。
第 1 に免疫学的研究です。
私自身のワクチン研究もそうですが,H.pyloriに対するワクチンの研究に興味を持っています。
また,日本で進められているH.pylori毒素についての研究も非常に重要なものです。


今後,H.pylori研究はどのような方向に進んでいくのでしょうか。
まず,数年以内に胃がんの発症機序が解明されるだろうと思います。
また,10年程度の時間が必要かもしれませんが,H.pyloriの研究を介して腸内免疫機構が解明されていくことでしょう。
それによりH.pyloriを利用した免疫疾患や食物アレルギーのコントロール,さらにはさまざまな疾患に対するワクチン接種が可能になると思っています。


Comment
除菌の普及で胃がんはマイナー疾患に

北海道大学大学院消化器内科学教授 浅香 正博
ノーベル賞受賞以来,精力的に講演やマスコミ出演をこなしているMarshallは目立っていますが, Warrenはほとんどマスコミにも出演せず地味な生活を保っているようです。
H.pyloriの発見はまさに動と静の全く性格の異なる 2 人が出会ったことによりなされた世紀の偉業です。
当時,世界中で最も胃炎の標本を見ていたであろう大勢の日本人病理学者はだれもH.pyloriに気が付かず,ノーベル賞を取る機会を逃したと言えます。

1990年に世界消化器病会議で胃炎の原因としてH.pyloriが認定され,94年には米国立衛生研究所(NIH)が胃・十二指腸潰瘍でH.pylori陽性なら除菌するよう勧告を出しましたが,日本の厚生省は反応が鈍かったですね。
われわれが日本ヘリコバクター学会を設立し,H.pylori診断・治療のガイドラインを作成したりして行政に働きかけ,2000年にようやくわが国でも胃・十二指腸潰瘍に対して除菌が保険適用になりました。

除菌によって 9 割以上の患者は維持療法なしでも潰瘍を再発しなくなります。
クラリスロマイシン耐性菌のため除菌治療に失敗することもありますが,そうした患者でも昨年新たに保険適用が認められたメトロニダゾールを使用した二次除菌を行え ば 8 〜9 割で成功します。
原因療法である除菌治療が進むにつれて,わが国の胃潰瘍や十二指腸潰瘍は確かに減ってきていると思います。

日本消化器病学会と日本ヘリコバクター学会は合同で,「ヘリコバクター感染症」に対して保険で除菌治療が受けられるよう,厚生労働省と交渉を始めています。
除菌治療自体は安価ですし,陽性者のうち希望者全員に除菌を行ってもトータルで考えれば医療費の削減につながると思います。
例えば,20歳の成人を迎えたときに全員がH.pylori検査を受け陽性だったら除菌するシステムを導入すれば,数十年後には日本では胃がんがほとんどなくなるでしょう。

われわれが最大のテーマとして取り組んできた胃がん抑制の研究がまとまり,今夏前に発表されますが,かなりのインパクトを与えると思います。除菌治療が普及した暁にはわが国でも胃がんはマイナーな疾患となっているでしょう。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M41141141&year=2008
出典 Medical Tribune 2008.4.3(創刊40周年記念特集号)
版権 メディカル・トリビューン社


<番外編>
「医学英検」を創設・日本医学英語教育学会
日本医学英語教育学会は、医療現場での英語の運用能力を評価する「医学英語検定」を創設した。
13日に初の試験を実施する。
英語を使った診療や、国際的に医療技術を伝えられる医師・通訳者などの育成が狙い。
初回は3、4級の試験を東京や兵庫などの会場で実施し、医学部生や通訳者ら約660人が受験する予定だ。
3級は筆記とリスニング試験、4級は筆記試験で判定する。
日経新聞•夕刊 2008.4.4
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080404AT1G0302D04042008.html

<コメント>
「日本医学英語教育学会」・・・そんな学会があったんですね。

他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/(循環器科関係の専門的な内容)
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by esnoopy | 2008-04-17 00:09 | 消化器科

麻疹 その1(1/4)

厚生労働省は昨年(H19年)8月に策定した「麻疹排除計画」が、本格的に動き出します。
目標は、2012年までに「はしかをなくす」、つまり麻疹患者の発生を100万人に1人未満にする排除(elimination)です。

翻って現在の医療現場はどうでしょうか。
現時点で当院には麻疹ワクチンがまったく入手できません。
薬剤卸業者に確認したところ、公費負担の麻疹ワクチンの接種のため地方自治体が確保しており一般市場(無床診療所)には出回らないとのこと。
この4月から中1と高3のMRワクチン接種が始まりました。
大学生などが接種希望するのは麻疹(単独)ワクチンであり、第一線の無床診療所にこそこの単独ワクチンを供給して欲しいものです。
麻疹ワクチンを希望する大学生には仕方なく高価なMRワクチンで代用しているのが現状です。
麻疹抗体の測定は昨年は完全にストップしました。
昨年は検査も接種も出来ない状態でした。

現場を知らない厚労省、そしてそのことに対して全く動かない医師会。
われわれ現場の医師は、厚労省は勿論のこと、医師会からも心が離れているのが現状ではないでしょうか。
長寿医療制度の新保険証のゴタゴタに関する枡添大臣の「医療機関への通達云々」。
私には未だ持って何も通達が届きません。

さて4回にわたって麻疹を勉強してみます。
教材は「日経メディカルオンライン」です。

麻疹は子供の病気にあらず
「はしかなんて子供の病気だろう」。
一般市民はもとより、第一線の医師であっても、つい最近までそう思っていた人は多いのではないだろうか。
しかし、現在のわが国における麻疹の流行状況は、一昔前とは全く様相が異なる。

2007年、日本全国を席巻した麻疹流行の中心となったのは、乳幼児ではなく、10代、20代の若年者だった。
感染症発生動向調査における15歳以上の「成人麻疹」の流行は、1999年以降で最大規模となり、学校閉鎖が相次いだことは記憶に新しい。

流行は春から夏にピークを越えたものの、全数把握疾患となった2008年は、第1週から報告数が増え続け、3月9日までの累積患者数は3600人を突破した(最新情報は感染研のホームページを参照)。
   感染症情報センター(麻疹)
   http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html#info2

年齢別では、やはり10代、20代が多く、7割近くを占めている。

麻疹をほぼ制圧している先進諸国の手前、恥ずかしい話ではあるが、いまや日本では、麻疹は小児科医に限らず、臨床医の誰もが遭遇する疾患だと考えた方がよいだろう。
たまたま当直をした日に、麻疹患者が救急外来を訪れることも十分あり得る。

そこでうっかり麻疹を見落とすと、非常に強い感染力を持つ麻疹ウイルスが、診断が付くまでの間に周囲の人間に次々とまき散らされることになる。
二次感染を最小限に抑えるためにも、第一線の臨床医が麻疹をいかに拾い上げられるかが重要となる。
麻疹の典型的な臨床経過をおさらいしておこう。

【カタル期】
麻疹は麻疹ウイルスの感染後、10〜12日の潜伏期間を経て発症する。まず38?前後の発熱、倦怠感、上気道炎症状(咳、鼻汁、くしゃみ)、結膜炎症状(結膜充血、眼脂、羞明)が出現し、2〜4日間続く。
この時期はカタル期と呼ばれ、麻疹の経過中で最も感染力が強い。
また、カタル期の後半、発疹出現の1〜2日前には、口腔粘膜の奥歯の対面に、やや隆起した径1mmほどの白色の小斑点(コプリック斑)が認められる。

【発疹期】
カタル期の発熱が1℃ほど下降した後、半日ほどして再び高熱(多くは39℃以上)が出現する(二峰性発熱)。
それと共に特有の発疹が出てくる。

発疹は耳後部、頸部、前額部から始まり、翌日には顔面、体幹部、上腕に及び、2日後には四肢末端にまで及ぶ。
初めは鮮紅色で扁平だが、徐々に皮膚面より隆起し、融合して不整形な斑状(斑丘疹)となる。
指で押すと退色し、一部には健常な皮膚も残る。

発疹が全身に広がるまで、39℃〜40℃台の発熱が3〜4日間続き、カタル症状も一層強くなる。
一方コプリック斑は、発疹出現後2日目の終わりまでに急速に消失する。
発疹は次第に暗赤色となり、出現順序に従って退色する。

【回復期】
発疹出現後3〜4日すると回復期に入る。
解熱し、全身状態やカタル症状も改善してくる。
発疹は退色するが、しばらくの間は色素沈着が残り、わずかな粃糠様落屑も認められる。

合併症がなければ、発症から7〜10 日後には回復するが、その後数週間は免疫機能低下状態が続くため、各種感染症に注意が必要となる。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/taya/200803/505832.html
出典 日経メディカルオンライン
版権 日経BP社

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by esnoopy | 2008-04-16 00:03 | 感染症