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基礎研究者の壊滅が将来の医学界の崩壊に

展望   基礎研究者の壊滅が将来の医学界の崩壊に
現在の危機的状況を認識すべき

将来,基礎医学の教育や研究を支える人材の壊滅が現実味を帯びている。
現在,医学部では卒業後2年間の臨床研修必修化,モデルコアカリキュラム導入がいずれも実施され,大学外の臨床志向を求める医学生が増加している。
一方で,基礎医学領域においては生化学講座などの統廃合がなされ,Medical Doctor(MD)の大学院生やポスドクの人数はきわめて少数なのが現状。
日本生化学会医科生化学・分子生物学教育協議会委員長である日本医科大学生化学教室の西野武士教授は「医学は本来,基礎と臨床のそれぞれの専門科目のきっちりした習得のうえに立った統合のなかから,多様な創造が生み出されるが,基礎医学領域の教育的基盤が崩れている現状は近い将来,臨床領域の崩壊をも導くことになり,医学界全体の崩壊につながりかねない」と危機感を募らせている。
同教授に基礎医学領域で今,何が起こっているのか聞いた。


基礎医学研究者は1990年をピークに減少
西野教授によると,基礎医学に携わる研究者数は1980年代には増加していたが,90年ころをピークに現在まで減少の一途をたどっている。

日本生化学会の会員を対象とした調査を見ると,生化学または分子生物学を専攻している医学部または歯学部学生会員数は1989年の670人から2007年には201人と約3分の1にまで減少した(図1)
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大学でも全国的に基礎医学に携わる研究者数の推移は同様の傾向にある。
日本を代表する某国立大学を例に取ると,1990年ころをピークに基礎医学研究者数は右肩下がりに顕著な減少が見られ,2007年における医学部卒業者のうち基礎医学に携わる研究を専攻していたのは1~2人であった。

同教授は現在の医学教育制度の問題点として,「基礎医学教育・研究の軽視や基礎医学研究者(特に医学部出身者)の減少,講義・実習時間数の減少や基礎医学講座の縮小,統合などによるリストラなどが挙げられる」と言う。


大学院の博士研究員がいない
こうした現状に対し,日本生化学会医科生化学の分子生物学教育協議会では前委員長である大阪大学微生物病研究所疾患糖鎖学の谷口直之教授が中心となり,「基礎医学教育・研究の危機」をテーマに,2006年10月に同協議会会員(44大学の教授51人)を対象にアンケートを行った。
西野教授は,アンケート結果から「学生の臨床志向,研究者減少,生化学講座の縮小など,基礎医学研究が着実に衰退に向かっている」と警告している。

アンケート内容を見ると,基礎医学教育・研究に対する危機について聞いたところ,「実感している」と答えたのは88%,「少し実感している」は12%で,「あまり感じていない」との回答はなしであった。
その理由(複数回答)は,「学生の臨床志向」と「研究者の減少」がそれぞれ60~70%,「生化学講座の縮小・統合」と「予算面・資金面」がそれぞれ約40%,「教育面での縮小」が約30%などであった。
生化学講座の統合・縮小が「実施されている」との回答は25%,「計画中」との回答は18%であった。

また,基礎医学研究におけるMD研究者の必要性について聞くと,存在が「必須」と答えたのが49%,「あれば望ましい」が47%と,多くが必要性を認識していた。
基礎と臨床の医学が統合されている全国共用試験(CBT)で基礎医学を独立させる考え方については,「賛成」37%,「反対」25%などであった。

ところが,臨床医学領域の所属を除いた大学院生,博士研究員,MD研究者の在籍数を見ると,大学院生では在籍数が「1人」の回答が23%と最も多く,次いで「0人」21%,「2人」20%,「3人」または「4人」それぞれ10%,「5人」8%,「8人以上」4%で,平均2.7人であった。
大学院生の在籍数のうちMD数については,「0人」と答えたのが60%と過半数を占めており,「1人」16%,「2人」14%,「7人」または「8人」はそれぞれ回答なしなどで,平均0.9人であった(図2)。

博士研究員の在籍数でも,「0人」の回答が80%(平均0.7人),「1人」6%など,博士研究員在籍数に含まれるMD研究者数も「0人」が86%(同0.2人),「1人」6%などときわめて少数であった。

また,モデルコアカリキュラムでbiologyなど語尾に「-ology」が付く科目を廃し,臨床志向の基礎医学が重視されている現状については,「まず科学者を育てる視点から基礎医学を位置付けるべき」との回答は約40%,「『-ology』を教えることが重要」は約35%であった(図3)。

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臨床研究の進歩に大きな弊害
「基礎医学教育・研究の危機」に対する打開策(複数回答)で半数以上得られた回答は,「臨床研修制度を改善し基礎系大学院に入学しやすくする」(約70%),「総合科学技術会議・日本学術会議などから基礎医学重視の政策提言」(約65%),「各教員が魅力ある教育を行う」,「各学会が連携して文部科学省に予算を含めて基礎医学の重視を訴える」(それぞれ約55%)などであった。

このような,基礎医学研究の戦略的プログラムの必要性から,同協議会では,MD-PhDコースに特別進学プログラムを設置するなどの制度改革や基礎医学重視の政策など,トップダウンの実効的な提言・改革を推進していくとしている。

西野教授は「現在の医学教育は,臨床医を養成するためのプログラムを先行している現状にあることから,基礎医学にかかわる研究者が,近い将来には皆無になってしまう恐れがある。
さらには,臨床研究の基盤の壊滅にもつながり,ひいては臨床研究の進歩への大きな弊害になることが考えられる」と危惧している。


プラス選択で医学研究発展を 
ただし,アンケート項目のモデルコアカリキュラムで廃止が検討されている-ologyについて,西野教授は「なぜ廃止という二者択一のマイナス選択になるのか,基礎と臨床の両方,さらにこれらを融合させた科目などプラスの選択があってもよいのではないか」と疑問を呈しており,「-ologyは医学研究では分子レベルに応用した段階であり,さらに分子レベルをさまざまな体系で複雑に組み合わせて統合して初めて創造性を構築することになる。
その過程が医学研究全体の発展につながる。
きちんとした生化学・分子生物学などの基盤が臨床研究の進展に果たす役割は大きい」と強調する。

さらに,研究者が創造性を見出すためには,さまざまな研究分野の専門家(スペシャリスト)から学ばなければならない。
「医学部出身のスペシャリストが存在しなくなると,学ぶ側は基礎医学を軽視し結果的に基礎学力が乏しくなることで創造性が衰弱してしまい,模倣の研究を繰り返すことになる。ひいては臨床応用の幅を狭めてしまうのではなかろうか」(同教授) 

同教授が米国のメディカルスクール(医学部)に留学していたときは医学部としての教育だけでなく,理学部や薬学部などのスペシャリストからも教育を受けていたという。

こうした医学研究にかかわる多様な専門分野を学ぶことができるという教育基盤を,わが国で整備できるのかというと現実的には難しい。

同教授は「現在,医療崩壊が指摘されているが,問題が実感されてから対策を講じていくのでは間に合わないし,まさに今は危険な泥船に乗っているようなものである。
基礎医学領域の研究者がほとんどいないという現実は,10~20年後に医学界自体の衰退という第二の医療崩壊に向かっている」としており,「対策を考えることは早急な課題であるが,まずは現在の医学界の危機的状況を認識してもらうことが第一歩ではないか」と主張した。
Medical Tribune 2008.3.13
版権 メディカル・トリビューン社


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<コメント>
先生方は基礎医学教室の出身学部をみられたことがありますか。
以前からもそうだったんでしょうが、最近では特に医学部出身者が減っているようです。
原因としては、臨床研修必修化などによる臨床医育成志向が根底にあるのは間違いないところです。
現場を知らない役人が臨床現場だけでなく、基礎分野の生態系を見事に荒廃させてくれています。
医学研究は総合大学も単科医科大学も余り変わりない研究体制のような気がします。
文中の、米国では学部を超えた相乗りの研究云々とありましたが学部間の横断的研究を国内では余り聞かないのが残念です。
最近、早稲田大学と東京女子医科大学の共同研究の話題もありますが、おおいに学部の垣根を越えた研究をしていただきたいものです。

基礎医学研究者の減少が国内だけなのか、世界的な傾向なのか是非知りたいところです。
国内だけの問題とすれば政府は医師偏在(これも愚策が原因)といった問題でけでなく、この問題にも早急に手をうつ必要があります。

他にもブログがあります。
ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy
(一般の方または患者さん向き)
葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/
(循環器科関係の専門的な内容)
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by esnoopy | 2008-03-19 00:45 | その他