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小脳障害におけるめまい疾患の鑑別


浅の川総合病院脳神経センター 廣瀬源次郎先生

はじめに
小脳は視覚系、固有感覚系とともに前庭・小脳系として四肢体幹の筋肉を有効に活性化して四肢・体幹動作の協調制御に関与し、平衡感覚を保持する機能を持つ。
そのため、小脳障害では何らかの平衡運動障害がみられると同時に、急性障害では小脳から密な連絡を受ける前庭神経核機能にも左右アンバランスが突然生ずるため、眼球運動異常を伴い、しばしば回転感を伴い、自己あるいは周囲が回転する錯覚を経験する回転性めまいを訴える。
一方、徐々に起こる小脳疾患である腫瘍や変性疾患では、左右アンバランスが小脳の持つ特徴的代償機能により補正されることから、回転感の錯覚は起こらず、急性回転性めまいとはならず、緩徐進行する小脳失調だけの訴えが多い。

回転性めまいを来たす小脳疾患

回転性めまいを来たす小脳疾患の代表は、急性の血管障害で、小脳梗塞、椎骨脳底動脈不全症と小脳出血であるが、小脳を含む脳幹脳炎(傍腫瘍性を含む)でも異常眼球運動であるオプソクローヌス、ミオクローヌスを伴い、重篤な急性めまいを来たすことが多い。
上眼瞼向きや下眼瞼向きの垂直性自発眼振がみられる疾患、たとえば小脳結合腕や虫部脱髄巣を有する多発性硬化症、脊髄小脳変性症、Chiari奇形1型、フェニトイン中毒などでは、血管障害でなくとも回転性めまいがみられる。表に急性めまい・ふらつき症状を来たす小脳疾患をほぼその頻度順にあげる。

小脳血管障害の鑑別
突然に起こる急性回転性めまいと平衡感覚障害は本症の特徴であり、意識清明にもかかわらず、はげしい頭痛と嘔吐に加え小脳失調による著明な立位・歩行障害があれば小脳出血が疑われる。
通常、小脳歯状核周辺に出血することが多い。
めまいと平衡障害だけで意識清明、頭痛がなければ、小脳梗塞をまず念頭に置くべきである。
小脳血管支配は、上小脳動脈(SCA)、前下小脳動脈(AICA)および後下小脳動脈(PICA)による。

SCA症候群では、小脳半球上面・側面だけでなく、中脳、外側橋上部の虚血を来たすことから、病側の運動失調、企図振戦、回転性めまい、悪心・嘔吐、健常側への水平性眼振、著明な運動失調とめまいがみられ、眼球は健常側に偏位し、対側への衝動性眼球運動はovershoot、病側への運動はundershootする。
さらに、橋症状として対側体幹・上下肢の温痛覚低下、深部感覚低下がみられる。

AICAは、内耳動脈を介して内耳末梢迷路を灌流するほかに、中枢では吻側前庭神経核、中小脳脚、片葉、および近在の種々の小脳小葉を支配しており、本動脈域の虚血は小脳半球中部の虚血とともに橋下部外側虚血を来たし、PICAによる小脳障害と同様の病側運動失調、推尺障害とともに、前庭神経炎様の方向一定性眼振がまれにみられるが、ほかに橋症状が加わることが多い。
AICA症候群の特徴は、その分枝である内耳動脈も虚血を来たし末梢蝸牛症状である難聴が小脳・橋症状とともにみられることである。

PICAは尾側前庭神経核、延髄背外側、小脳垂、および小脳結節を支配する。
本動脈は内側枝と外側半球枝に分かれ、前者内側枝は小脳虫部の下部前庭小脳(片葉・小節)を灌流しており、この枝単独の虚血では急性めまいを来たし、その所見として回旋性方向一定性眼振のみがみられることから、急性の末梢性前庭臆害に似た症状を来たす(偽性迷路徴候)ため、前庭神経炎との鑑別が重要である。
後者の虚血では下部小脳半球の広範囲の梗塞を来たし、病側への偏い、推尺障害などの著明な小脳症状がみられる。
またPICAは延髄外側をも灌流するため、この領域での虚血は、延髄外側症候群=Wallenberg症候群として特徴的症候を呈すことでよく知られている。

出典  Medical View Point 2007.1.10

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by esnoopy | 2008-03-10 00:05
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