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麻疹 その1(1/4)

厚生労働省は昨年(H19年)8月に策定した「麻疹排除計画」が、本格的に動き出します。
目標は、2012年までに「はしかをなくす」、つまり麻疹患者の発生を100万人に1人未満にする排除(elimination)です。

翻って現在の医療現場はどうでしょうか。
現時点で当院には麻疹ワクチンがまったく入手できません。
薬剤卸業者に確認したところ、公費負担の麻疹ワクチンの接種のため地方自治体が確保しており一般市場(無床診療所)には出回らないとのこと。
この4月から中1と高3のMRワクチン接種が始まりました。
大学生などが接種希望するのは麻疹(単独)ワクチンであり、第一線の無床診療所にこそこの単独ワクチンを供給して欲しいものです。
麻疹ワクチンを希望する大学生には仕方なく高価なMRワクチンで代用しているのが現状です。
麻疹抗体の測定は昨年は完全にストップしました。
昨年は検査も接種も出来ない状態でした。

現場を知らない厚労省、そしてそのことに対して全く動かない医師会。
われわれ現場の医師は、厚労省は勿論のこと、医師会からも心が離れているのが現状ではないでしょうか。
長寿医療制度の新保険証のゴタゴタに関する枡添大臣の「医療機関への通達云々」。
私には未だ持って何も通達が届きません。

さて4回にわたって麻疹を勉強してみます。
教材は「日経メディカルオンライン」です。

麻疹は子供の病気にあらず
「はしかなんて子供の病気だろう」。
一般市民はもとより、第一線の医師であっても、つい最近までそう思っていた人は多いのではないだろうか。
しかし、現在のわが国における麻疹の流行状況は、一昔前とは全く様相が異なる。

2007年、日本全国を席巻した麻疹流行の中心となったのは、乳幼児ではなく、10代、20代の若年者だった。
感染症発生動向調査における15歳以上の「成人麻疹」の流行は、1999年以降で最大規模となり、学校閉鎖が相次いだことは記憶に新しい。

流行は春から夏にピークを越えたものの、全数把握疾患となった2008年は、第1週から報告数が増え続け、3月9日までの累積患者数は3600人を突破した(最新情報は感染研のホームページを参照)。
   感染症情報センター(麻疹)
   http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html#info2

年齢別では、やはり10代、20代が多く、7割近くを占めている。

麻疹をほぼ制圧している先進諸国の手前、恥ずかしい話ではあるが、いまや日本では、麻疹は小児科医に限らず、臨床医の誰もが遭遇する疾患だと考えた方がよいだろう。
たまたま当直をした日に、麻疹患者が救急外来を訪れることも十分あり得る。

そこでうっかり麻疹を見落とすと、非常に強い感染力を持つ麻疹ウイルスが、診断が付くまでの間に周囲の人間に次々とまき散らされることになる。
二次感染を最小限に抑えるためにも、第一線の臨床医が麻疹をいかに拾い上げられるかが重要となる。
麻疹の典型的な臨床経過をおさらいしておこう。

【カタル期】
麻疹は麻疹ウイルスの感染後、10〜12日の潜伏期間を経て発症する。まず38?前後の発熱、倦怠感、上気道炎症状(咳、鼻汁、くしゃみ)、結膜炎症状(結膜充血、眼脂、羞明)が出現し、2〜4日間続く。
この時期はカタル期と呼ばれ、麻疹の経過中で最も感染力が強い。
また、カタル期の後半、発疹出現の1〜2日前には、口腔粘膜の奥歯の対面に、やや隆起した径1mmほどの白色の小斑点(コプリック斑)が認められる。

【発疹期】
カタル期の発熱が1℃ほど下降した後、半日ほどして再び高熱(多くは39℃以上)が出現する(二峰性発熱)。
それと共に特有の発疹が出てくる。

発疹は耳後部、頸部、前額部から始まり、翌日には顔面、体幹部、上腕に及び、2日後には四肢末端にまで及ぶ。
初めは鮮紅色で扁平だが、徐々に皮膚面より隆起し、融合して不整形な斑状(斑丘疹)となる。
指で押すと退色し、一部には健常な皮膚も残る。

発疹が全身に広がるまで、39℃〜40℃台の発熱が3〜4日間続き、カタル症状も一層強くなる。
一方コプリック斑は、発疹出現後2日目の終わりまでに急速に消失する。
発疹は次第に暗赤色となり、出現順序に従って退色する。

【回復期】
発疹出現後3〜4日すると回復期に入る。
解熱し、全身状態やカタル症状も改善してくる。
発疹は退色するが、しばらくの間は色素沈着が残り、わずかな粃糠様落屑も認められる。

合併症がなければ、発症から7〜10 日後には回復するが、その後数週間は免疫機能低下状態が続くため、各種感染症に注意が必要となる。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/taya/200803/505832.html
出典 日経メディカルオンライン
版権 日経BP社

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# by esnoopy | 2008-04-16 00:03 | 感染症

糖尿病 (世界の権威に聞く)

Medical Tribune 2008.4.3号には「世界の権威に聞く」という特集記事があります。
きょうは糖尿病研究に関する最新の動向を勉強しました。

C. Ronald Kahn
ハーバード大学教授,ジョスリン糖尿病センター前所長
2000年から2007年までジョスリン糖尿病センター所長。
インスリン受容体チロシンキナーゼを発見。
2型糖尿病や肥満におけるインスリン抵抗性状態のネットワークの変化やこれらシグナルの遺伝的・環境的要因の解明に努める。


日本だけでなく世界的に糖尿病患者数は増加傾向にあり,それに伴う合併症の増加も予想される。
そのため,糖尿病治療の成功は臨床的転帰の改善にとどまらず,社会的・医療経済的にも希求されているのが現状である。
ここでは,糖尿病研究を約40年リードしてきたジョスリン糖尿病センター前所長で,ハーバード大学のC. Ronald Kahn教授に,これからの糖尿病克服の鍵について聞いた。


増加を続ける糖尿病患者
―― 米国における糖尿病患者の現状はいかがでしょうか。
今,私たちは糖尿病,特に 2 型糖尿病の世界的流行に直面しており,これは肥満やメタボリックシンドロームと関連付けられています。

米国では現在,18歳以上の糖尿病患者が2,100万人を数えており,毎年約100万人のペースで増加し続けています。
これは公衆衛生上,非常に憂慮すべき統計学的な数値です。また,小児や若年者においても 2 型糖尿病患者は急速に増加していることも懸念されるところです。

米国の糖尿病患者の増加は多くの要因が複雑に絡み合ってもたらされています。
要因の 1 つは明らかに生活習慣の変化であり,幼児の間でさえ肥満が増大しており,由々しき事態です。

また,米国におけるこのような増加の背景には,他の要因も関与している可能性があります。
例えば,米国のさまざまな民族集団,ヒスパニック系,アフリカ系米国人,アジア系米国人,米国先住民ではいずれも糖尿病リスクが増加しています。


求められるインスリン抵抗性関与のメカニズム解明
―― 肥満,メタボリックシンドローム増加による影響,またアディポサイトカインやインスリン抵抗性といった病理学的原因についてはどのようにお考えですか。
2 型糖尿病発症率の増加は肥満とインスリン抵抗性が複雑に関与しています。

メタボリックシンドロームには 2 型糖尿病,すなわち耐糖能異常だけでなく,脂肪肝,脂質異常症,高トリグリセライド血症,低HDLコレステロールおよびVLDLコレステロール血症などの脂質異常症やアテローム動脈硬化症,高血圧のリスク増大も含まれます。
胆石や女性の生殖障害との関係,さらにはアルツハイマー病といった神経変性疾患との関係など多くの問題が含まれています。
未解決の最重要な課題の 1 つは,こうした症候群の根本原因の解明です。

確かにメタボリックシンドロームの基盤にはインスリン抵抗性がありますが,いまだこの原因は明らかにされていません。
脂肪細胞は多くのアディポカインを分泌し,腫瘍壊死因子(TNF)αなどのインスリン抵抗性を高めるものもあります。

ここで,日本の門脇教授らはアディポネクチン受容体を発見したことでもよく知られていますが,そのアディポネクチンなどインスリン感受性を高めるものとインスリン抵抗性を高めるものの関係を理解する必要があるのです。
しかし,これらが直接的な原因なのか,あるいは病態のマーカーであるのかは未解決のまま残されています。
また,非常に興味ある分野の 1 つに炎症と脂肪組織内の炎症細胞が挙げられます。
インスリン抵抗性と肥満を発現する場合,リンパ球と単球が脂肪組織に侵入してリンホカインを放出し,脂肪細胞がアディポカインを放出し,これらが一緒になるとインスリン抵抗性を高める可能性があります。


―― 糖尿病治療において,インスリン抵抗性改善薬と,米国で最近普及してきたGLP-1,DPP-4阻害薬はどう位置付けたらよいのでしょうか。
疾患の多くはインスリン抵抗性を基盤とするため,インスリン感受性を改善する薬剤は治療上基本となります。
メトホルミン,チアゾリジンジオン誘導体(ロシグリタゾン,ピオグリタゾン)などが挙げられますが,これらはすべての患者で,また糖尿病の全期間にわたって効果的というわけではありません。

そのため,新しいインスリン感受性改善薬を探求し続ける必要性があります。
例えば,サーチュインと呼ばれる蛋白質ファミリーを活性化する可能性を有する新薬の開発が注目を集めています。
これらの蛋白質は多くの代謝経路を制御しており,その活性が増強するときにインスリン感受性を改善する可能性があり,現在,製薬会社の数社がこの分野の研究・開発に取り組んでいます。

当然ながら,糖尿病の究極の原因となるのはなんらかのβ細胞不全であるためスルホニル尿素薬が用いられてきましたが,現在ではGLP-1やexenatide,DPP-4阻害薬と呼ばれるGLP-1プロテアーゼ阻害薬による新たな治療薬が開発されており,これらはインスリン分泌を改善するうえで非常に効果的だと思います。

問題はGLP-1とexenatideの剤形が依然として注射剤であることです。
経口剤であるDPP-4阻害薬は注射剤と同程度の体重減少はもたらしません。
今後,こうした分野でのよりいっそうの研究が続けられることを期待しています。


治療よりも予防を目指して
―― 糖尿病研究をリードしてきた立場から,今後の糖尿病治療・研究の方向性をお示しください。
過体重は,将来的には日本でも問題となると予測されます。
将来のために私たちが行うべきことの 1 つは,環境が自分の身体に及ぼす影響を制御する方法を見出すことです。
糖尿病や肥満をもたらす環境的な刺激は,われわれが考える以上に複雑化します。
米ワシントン大学のJeffrey Gordon博士の研究所から発表された興味深い新しい研究分野があり,彼は肥満の人の腸内細菌がやせた人とは異なることを見出しました。
やせたマウスから腸内細菌を抽出して肥満マウスに注入すると,肥満マウスはやせ,またその逆の現象も起こることを発見したのです。
そのため,例えば,私たちが食べる量以外にも相違をもたらす多くの要素が存在する可能性があることを示しています。
未知の環境的要素があるかもしれません。
ですから,私たちは,インスリン作用や分泌の基本的なメカニズムだけでなく,糖尿病に関与している他の環境的因子の存在やそれらを変化させられるかという研究に取り組む必要があります。

また,自己免疫型であり,2 型糖尿病よりも発症頻度がまれな 1 型糖尿病の問題もあります。免疫系は 1 型および 2 型糖尿病双方に影響を及ぼすと考えられますし,これら 2 つのタイプの糖尿病に影響する将来的な共通の研究分野です。

最後に,私にとって糖尿病の最も重要な面は治療ではなく予防です。
糖尿病専門医の数が非常に不足しており,さらに栄養学や運動のスペシャリストも不足しているのが現状です。
今後,集学的な糖尿病予防研究に力を注ぎ,予防策を見出さなければならないでしょう。

Comment
基礎・臨床両面からの解明に鍵
日本独自のエビデンス集積に期待

東京大学大学院糖尿病・代謝内科教授 門脇 孝
日本の糖尿病の現状は,2002年の糖尿病実態調査から患者数740万人,予備軍880万人と報告されており,最近の統計では40歳以上の実に 3 人に1 人が糖尿病または予備軍であるという驚くべき結果が示されています。
日本人は欧米人に比べてインスリン分泌量が 2 分の 1 であるにもかかわらず,高脂肪食,運動不足といった欧米型の生活習慣が浸透したことがこの背景に挙げられます。
米国ではbody mass index(BMI)30以上が成人人口の約 3 分の 1 以上を占めるのに対し,日本ではわずか 4 %前後です。しかし,インスリン分泌低下の体質のため,わが国ではBMI 25程度であっても米国のBMI 30以上と同程度の糖尿病リスクを有する点に注意を払う必要があります。
こうした糖尿病・肥満患者の激増や,2005年 4 月の内科学会を中心とした 8 学会によるメタボリックシンドロームの診断基準の策定を契機に,わが国でも肥満や内臓脂肪蓄積を背景とした糖尿病・心血管イベントリスクを増加させる疾患への認識が高まり,基礎研究からの解明が強く求められています。
なかでも,膵β細胞からのインスリン分泌およびインスリン抵抗性に対するβ細胞の代償性過形成メカニズムの解明や,アディポカインに関する研究は世界でも注目を集める成果を得ています。
今後,内臓脂肪特異的なアディポカインやインスリン抵抗性だけでなくインスリン分泌不全を惹起するアディポカインの同定などが,メタボリックシンドロームや糖尿病の発症機序を考えるうえで重要となる可能性があります。

臨床的な面からは次の 3 点に注目しています。
まず,今年 4 月には,メタボリックシンドロームに焦点を当てた特定健診・保健指導制度が開始されます。
生活習慣病の予防対策として世界に誇れる取り組みとなることに期待しています。
次は,GLP-1やDPP4阻害薬などの臨床導入です。
これらの薬剤は糖尿病治療改善に大きく貢献すると思われます。
最後に,HbA1c,血圧,LDLコレステロール値などの治療目標達成の改善です。
厚生労働省が2005年度に開始したJ-DOIT3研究は糖尿病合併症の進展を30%抑制する介入方法を研究しており,わが国の糖尿病治療のエビデンスが示せることにおおいに期待しています。

http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M41140991&year=2008

出典 Medical Tribune 2008.4.3
版権 メディカル・トリビューン社


<参考サイト>
J-DOIT3
Japan Diabetes Optimal Integrated Treatment Study for 3 Major Risk Factors of Cardiovascular Diseases
2型糖尿病において,血糖,血圧,脂質代謝治療のうち糖尿病合併症予防の点で優れた治療法は何であるかを検討。
http://www.ebm-library.jp/circ/doc_japan/J0054.html

<コメント>
文中の「これらが直接的な原因なのか,あるいは病態のマーカーであるのか・・・」。
まさしく本質的な提言と思います。
たとえば動脈硬化と種々の脂質が相関するからといって直接な因果関係、つまり高脂血症が真の動脈硬化の原因ではない(サロゲートマーカー)のではないかと、ふと思ってしまうことが私の心の奥底にはあります。
先生方はいかがでしょうか。

他にもブログがあります。
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# by esnoopy | 2008-04-15 00:14 | 糖尿病

脳梗塞2次予防にみる最新の動向

きょうは脳卒中の2次予防について勉強しました。
一般的に医師も患者も一度起こった脳卒中のリハビリで頭がいっぱいになってしまいがちです。
一度あることは二度ある。
いったい脳卒中の再発率はどのぐらいなのでしょうか。
当然初発の確率より高いとは思うのですが。

小樽市 脳神経外科 島田脳神経外科
http://www.shimada-noushinkei.com/diseases3.html
脳卒中の再発の頻度は決して低いものではなく、発症後5年間で20~40%とされ、同期間の死亡率は45~61%とされています。多くの報告では発症1年以内の再発率が高く、脳梗塞は脳梗塞として再発することが90%、10%は出血として再発するといわれています。また、脳出血の再発率は年間2.9%で、半数近くは脳梗塞で再発すると報告されています。


とにかく脳卒中のリスクファクターがあって発作を起こしたわけですから、二次予防が重要であることには間違いありません。
患者への啓蒙も含めて医療側も心すべきテーマだと思います。

東京女子医科大学神経内科教授の内山真一郎氏
―― 脳卒中の2次予防については、これまでにかなりの臨床成績が集積していると思いますが、現時点でエビデンスの確立している治療法についてご説明ください。
内山
■脳卒中の予防対策として最初に行うべきことは、危険因子を適正に管理することです。
脳卒中の危険因子として知られているのは高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、心房細動、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病(CKD)などですから、それらを食事、運動、禁煙、薬物により治療する必要があります。
特に2次予防では、既に脳卒中を発症しているハイリスクの人々が対象となるので、より厳格な管理が必要であり、一般に早期から薬物療法の適応になると考えていいでしょう。

危険因子の管理は脳卒中の病型(脳出血か脳梗塞か)にかかわりなく有益ですが、脳梗塞の2次予防では、危険因子管理とともに抗血栓療法が必要になります。
どのような抗血栓療法を行うかは、脳梗塞の病型によって異なります。
動脈にできる血小板血栓に起因する非心原性脳梗塞に対しては、抗血小板療法が適応になります。

一方、心臓から飛んだフィブリン血栓が脳血管を閉塞する心原性脳塞栓を予防するためには抗凝固療法が必要であり、経口抗凝固薬のワルファリンが広く使用されています。

脳梗塞の病型に応じてこれらの治療を適切に行えば、再発を有意に抑制しうることが証明されています。

―― 抗血栓療法は出血性副作用を伴うため、予防効果を高めるために治療を強化すると出血リスクが増大するというジレンマをかかえています。最近の研究でこの問題を克服する展望は開けてきたのでしょうか。
内山
■抗血小板療法についていえば、日本ではアスピリン、チクロピジン、シロスタゾールの3剤が使われてきましたが、昨年から新たにクロピドグレルが加わりました。

海外ではシロスタゾールと同じフォスフォジエステラーゼ(PDE)阻害薬に属するジピリダモールも使用され、アスピリンとの併用または合剤による治療が行われていますが、日本ではまだ、脳梗塞2次予防におけるジピリダモールの適応は認められていません。
最近の大規模臨床試験では、抗血小板薬の併用によって再発予防効果が改善するかどうかが検討されてきましたが、アスピリンとクロピドグレルに関しては、両者を併用してもそれぞれを単独で投与した場合に比べて明らかな上乗せ効果がみられず、出血性副作用が増加するという結果でした。
代わって今、注目されているのがアスピリンとジピリダモールの併用療法です。この併用療法については、PRoFESS(Prevention Regimen for Effectively Avoiding Second Stroke)という大規模試験が最近終了し、5月に最終結果が発表される予定です。
約2万人の脳梗塞既往例を対象に徐放性ジピリダモールとアスピリンの合剤の再発抑制効果をクロピドグレルと比較する研究です。

アスピリン・ジピリダモール併用がなぜ期待されているかというと、シロスタゾールを含むPDE阻害薬に関しては、アスピリンと併用しても出血性合併症が増加しないことが複数の臨床研究で示唆されているからです。

したがって、PRoFESSで合剤の有効性と安全性が証明されれば、両薬剤の併用が抗血小板療法を強化する有力な方法として確立することになります。

―― PRoFESSでARBの脳梗塞予防効果が検証される意義についてお話しいただけますか。
内山
■ARBは高血圧治療薬として広く使用されていますが、脳卒中の再発を抑えるためには血圧を厳格に管理する必要があります。特に高血圧が脳出血を引き起こすことを考えると、脳梗塞予防の目的で抗血栓療法を施す場合、出血リスクを増大させないためにも血圧を低くコントロールすることが重要です。

ですから、血圧管理の役割は極めて大きいのですが、脳卒中患者は糖尿病やCKD、心房細動、あるいはメタボリックシンドロームを合併していることが多く、そのような症例に対しては、降圧薬の中でも心血管保護作用をもつレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬が有用といわれます。

PRoFESSでRA系阻害薬の1つであるARBの有用性が認められれば、その脳保護作用が臨床的に証明されることになります。

ちなみに、もう1つのRA系阻害薬であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬については、冠動脈疾患の2次予防効果は認められているものの、単独で脳梗塞再発を有意に抑制することを示したデータはありません。
また、脳梗塞の予防においてACE阻害薬とARBのどちらが優れているかについても、まだ結論は出ていないのですが、今年の春、結果発表が予定されている大規模試験ONTARGET(Ongoing Telmisartan Alone and in Combination with Ramipril Global Endpoint Trial)によってある程度明確になるだろうと思います。

ONTARGETは冠動脈疾患、脳卒中、末梢動脈疾患の既往例を含む脳心血管病のハイリスク患者約2万5000例を対象に、ARBのテルミサルタンとACE阻害薬のラミプリルを、それぞれ単独投与した場合と、両薬剤を併用した場合の脳心血管イベント抑制効果を比較する試験です。

この試験の興味深いところは、正常血圧の被験者が多数導入されていることです。
したがって、試験の結果、もしも正常血圧群でイベント抑制効果に差が生じれば、それは降圧を超えた血管・臓器保護作用の差を反映したものといえるでしょう。
主要評価項目は、心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中・入院を要するうっ血性心不全からなる複合エンドポイントの頻度ですが、症例数が多いので、脳血管イベントに関しても信頼性の高いデータが得られるだろうと期待しています。

((日経メディカル別冊)
日経メディカル オンライン
版権 日経BP社
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/special/stroke08/update/200803/505713_2.html


<コメント>
ONTARGETの結果は3月末に発表されました。

ONTARGETの結果を考察する
http://blog.m3.com/reed/20080412/ONTARGET_
注目の降圧薬臨床試験 ONTARGET
http://blog.m3.com/reed/20080404/__ONTARGET

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胃食道逆流症と腹腔鏡下噴門形成術

肥満の有無は予後に影響を及ぼさず 
東京慈恵会医科大学外科学講座の坪井一人氏らは,胃食道逆流症(GERD)に対する
腹腔鏡下噴門形成術は,「body mass index(BMI)30以上の肥満患者では
手術時間の延長と術中出血量の増加傾向は認められるものの,重篤な合併症もなく,
再発率も非肥満症例と同等であることから,安全に施行可能と考えられる」と報告した。


肥満では手術時間のみが延長

現在,腹腔鏡下噴門形成術はGERDの標準術式として確立しているが,肥満はGERD
の増悪因子の 1 つと考えられており,肥満GERD患者の手術では腹腔内脂肪の増加
が視野不良を来し,手術難度が増すと一般的に捉えられている。

このため坪井氏らはBMI 30以上の肥満を有するGERD患者で,手術関連因子や術後
経過などを非肥満GERD患者と比較した。

対象症例は1996年 6 月~2007年 5 月に腹腔鏡下噴門形成術を施行したGERD症例
170例(男性104例,女性66例,平均年齢53.2±15.7歳)。

このうちBMI 30以上の肥満GERD患者は11例で,残りの非肥満GERD患者159例との
間で病態,術式などの患者背景に有意差は認められなかった。

手術時間は肥満GERD患者185.7±36.1(140~280)分,非肥満群155.7±47.3
(70~303)分と,肥満症例で有意な手術時間の延長が確認された。

一方,術中出血量は肥満GERD患者65.5±140.8mL,非肥満GERD患者53.7±327.3mLであり,肥満GERD患者で増加傾向を示したが,統計学的に有意差
はなかった。

術中合併症は肥満GERD患者では食道損傷 1 例のみであり,非肥満GERD患者では
横隔膜脚損傷 4 例,胃壁損傷 2 例,気胸,食道損傷がともに 1 例ずつ発生したが,
両群とも開腹術へ移行した症例はなく,術後の食道炎再発率に関しては,肥満GERD
患者で9.1%に対し非肥満GERD患者で8.8%と,統計学的に有意差は認められ
なかった。

同氏は「検討前は肥満の有無で手術成績に差が認められると予想していたが,実際
には手術時間以外に明確な差は認められず,腹腔鏡下噴門形成術の安全性の高さ
が示された」と述べた。


<番外編>■ 
<長寿医療制度> 新保険証未着、全国で6万件超 大阪で最多1万6000件
今月スタートした長寿(後期高齢者)医療制度の保険証が届かないケースが多発している問題で、対象者に届かずに自治体に返送された件数が全国で約6万件(推定含む)に上ることが9日、毎日新聞の調べで分かった。
担当窓口には苦情が殺到し、保険料の誤徴収などのミスも相次いで発覚している。新制度は開始当初から混乱が続いている。

新制度の対象は、75歳以上と、65~74歳の障害認定を受けた計約1300万人。
多くの自治体が保険証を郵送する際、本人の手に確実に届くよう「転送不要」とした。
このため住民票の届け出と異なる場所に住む対象者らに保険証が届かず、自治体に返送されるケースが多いとみられる。


都道府県ごとに制度を運用する後期高齢者医療広域連合などに取材した結果、未着分は計6万3469件に上る。
都道府県別では、大阪府が1万6000件で最多。神奈川県1万3700件、愛知県9450件、東京都7600件――が続く。
未着を把握しているが、集計できていない県も多数あった。

秋田県の広域連合によると、対象者から「中身を確認せずに捨てた」との申告があった。福島市でも「ダイレクトメールと勘違いし捨てた」というケースがあり、制度周知が徹底していなかったことがうかがえる。

制度自体への苦情も多い。
75歳以上の高齢者の負担増になるケースもあるため、「年寄りに死ねというのか」(福岡)、「『消えた年金』問題が解決していないのに、年金から徴収するとは何事か」(長崎)などの抗議が寄せられている。

各広域連合は電話増設などをして対応しているが、追いつかないのが現状だ。
長野では3月中旬、電話回線を4回線から7回線に増設した。
千葉は1日以降、電話が一日中鳴りっぱなしといい「職員3人で対応しているが間に合わない」と悲鳴を上げている。
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/news/20080410ddm041010168/
出典 毎日新聞 2008.04.10
版権 毎日新聞社

<コメント>
予想どおりのドタバタです。
得体のしれない「広域連合」という組織も不気味です。
どんな人がやっていてどこからお金がでているのでしょうか。
調べるのも面倒くさいことですが。

広域連合 http://www.soumu.go.jp/kouiki/kouiki1.html

■ 新たな保険証がないまま受診すると、いったん医療機関の窓口でかかった医療費の全額支払いを求められる。
新制度の窓口自己負担率はこれまでと同様、原則1割だが、新しい保険証がないため突然高額な医療費を請求され、支払いに困るケースもあった。

こうしたトラブルが各地で相次いだことを受け、厚労省は、国民健康保険証など、高齢者が3月まで利用してきた保険証を当分の間「代用」として使えるようにすることを決め、こうした古い保険証で受診しても、原則1割負担とするよう医療機関に要請した。
古い保険証も持っていない人には、運転免許証など住所や生年月日を確認できる書類があれば従来通りに受診できるようにする。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080410-00000971-san-soci


<コメント>
「医療機関に要請」?
私は要請された覚えはありません。
一方的な通達のはずですが、「古い保険証でも1割負担」というのは、従来からの保険証提示確認によって保険診療が始まるという不可侵の大原則を自ら破っていませんか?
正式な通知が今日にでも医師会からわれわれ日本医師会会員に届くんでしょうか?
それがなければ「要請」ではありません。
9割分の回収不能が生じたとき泥をかぶるのは医療機関ですか?
なぜ医療機関が尻拭いをさせられるのですか?
4月中に患者が新保険証を持って来院しない場合、4月分の保険請求はどうなるんですか?
昨夜の報道ステーションの古館も、医療側の困惑は一切伝えませんでした。


<参考ブログ>
旧保険証も有効?
http://blog.m3.com/BH/20080411/2
お気楽な厚労省官僚たち
http://blog.m3.com/BackToTheStreet/20080410/1

同じ考えの先生がいて意を強くしました。

まったくもって厚労省ってのは・・・
医師会もなにやってんだか・・・

他にもブログがあります。
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# by esnoopy | 2008-04-11 00:08 | 消化器科

飲酒と血圧

高血圧で通院中の患者さんに「先生、アルコールはのんでいいでしょうか」と聞かれた場合、「適量のアルコールは鎮静作用も期待できていいですよ」と答えると思います。
私もそう指導してきました。
そんな中、こんな記事がを見かけました。

飲酒と血圧の関連は定説より強力
英ブリストル〕ブリストル大学社会医学科のSarah Lewis博士らは,最近実施された研究のアナリシスの結果,過度の飲酒と高血圧の関連はこれまで考えられていたよりも強いことが示唆されるとPLoS Medicine(2008; 5: e52)に発表した。

分解酵素の遺伝的変異に注目
過去の観察研究から,過度の飲酒は高血圧の危険因子の 1 つであることが示されているが,これらの研究には食事,喫煙,運動レベル,社会経済状況などの交絡因子が存在している可能性がある。
飲酒と高血圧の関連性を解明する臨床試験の実施は困難で,フォローアップ期間が限られている。
今回の研究は,身体のアルコール分解能に影響を与える遺伝子に変異がある者に注目するという以前と異なるアプローチを採用した。

体内に摂取されたアルコールは,アセトアルデヒドという中間化合物を介して酢酸になり体外へ排出される。
アルコールの分解にかかわるおもな酵素は,アルデヒド・デヒドロゲナーゼ2(ALDH2)である。

一部の人は遺伝的変異によりアセトアルデヒドの代謝ができないため,アルコールを摂取すると体内にアセトアルデヒドが蓄積する。
このような変異は一部のアジア人では一般的で,飲酒後に顔面紅潮,強い悪心,眠気,頭痛などの不快な症状が発生する。
この遺伝的変異を有する者は,有さない者に比べてアルコールの許容量がはるかに低い。

Lewis博士らはALDH2の遺伝子型に注目し,変異を有する者(遺伝子型*2*2)の血圧と,変異を有さない者(遺伝子型*1*1)の血圧を比較した。

その結果,遺伝子型*1*1の者は1 日当たりおよそ 3 単位のアルコールを摂取しており,飲酒量がきわめて少ないかゼロであった遺伝子型*2*2の者と比べて,血圧が著しく高いことがわかった。

同博士は「たとえ適量であっても,飲酒はこれまで考えられていたよりもはるかに大きく血圧を上昇させる可能性があることがわかった。われわれの知見を追認し,推測の精度を上げるためには,大規模な研究が必要である」と述べている。

出典 Medical  Tribune 2008.4.3
版権 メディカル・トリビューン社


<参考サイト>
24時間血圧への影響
href="http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamph/pamph_32/panfu32_04.html" target="_blank">http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamph/pamph_32/panfu32_04.html
アルコールが日中の血圧を上げることは事実ですが、夜の血圧(飲酒後数時間)は逆に下げるように働きます。
アルコールと高血圧の関係は、これまで過大に評価されてきたのではないでしょうか。
別の見方をすれば、高血圧の患者さんが飲酒を控えた場合には、日中の血圧は下がりますが、1日の平均血圧でみれば、期待するほどの降圧効果はなさそうです。
(結論として高血圧患者への節酒や禁酒はあまり効果がない)

飲酒、喫煙と循環器病
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/text/pamph/pamph_32/panfu32_text.html
アルコールは血圧を一時的に下げることもありますが、長い間、飲み続けると、血圧を上げ、高血圧症の原因になると考えられています。多くの研究で、日々の飲酒量が多いほど血圧の平均値が上がって、高血圧症になるリスクも高まることがはっきりしてきました。
では、1日にどれくらい飲んでいると、血圧に影響するのでしょうか。日々の摂取量が多くなればなるほど、血圧が高くなっています。
「日本酒1合、ビール大瓶1本、ウイスキーシングル2杯、ワイン2杯」のそれぞれに含まれるアルコールは、約30ミリ・リットルですが、これまでの研究をまとめますと、アルコール1日30ミリ・リットルあたり、血圧は3ミリほど上がることが認められています。
こうした飲酒による血圧の上昇は、人種や、アルコール飲料の種類にかかわりなく認められていますから、あの酒だと影響が少ないといったことはありません。

アルコールで血圧が上がる理由については、血管の収縮反応が高まるほか、心臓の拍動を速める交感神経の活動、腎臓からマグネシウムやカルシウムが失われるため、などと考えられています。アルコール飲料に含まれるカロリーにより体重が増えることや、塩辛いつまみをとることも関係するでしょう。

健診で高血圧を指摘されたのですが、お酒はやめたくありません。
http://www.nikkeibp.co.jp/archives/339/339066.html
高血圧の人がお酒を飲むときは、男性は1日30ミリリットル以内(ビール大びん1本、または日本酒1合まで)、女性はその半分までにしましょう。また、お酒を飲むときは塩辛いつまみを食べることが多いのですが、血圧が高い人は、塩分制限の点からも特に


アルコールと高血圧
http://www2.health.ne.jp/library/0600/w0600022.html
福岡県久山町で40歳以上の一般住民を対象にした調査を行いました。すると、日本酒1合未満の少量飲酒者でも全くお酒を飲まない人に比べると、高血圧の割合が高いことが分かりました。その上、正常血圧の人でも10年間のうち、少しでもお酒を飲み続けている人は飲んでいない人よりも、高血圧になりやすいことも分かりました。
ですから、日本人の場合、1日1合未満の少量のお酒でも、血圧が上昇する可能性が高いようです。どうして、アルコールが血圧を上げるかについては、いろいろ研究されていますが、まだよく分かっていません。




# by esnoopy | 2008-04-10 00:35 | 高血圧症